🎻15:─2─ベルヌ条約(著作権に関する条約)加盟国による戦時加算。敵国条項と敗戦国条項。~No.52 @ 

   ・   ・   ・   
 関連ブログを6つ立ち上げる。プロフィールに情報。
   ・   ・   {東山道美濃国・百姓の次男・栗山正博}・  
 2018年9月号 新潮45「まだ『敗戦国』ニッポン
 いまも生きている著作権敵国条項』   
 国際連合憲章の中にある日本を始めとする旧同盟国に対する『敵国条項』。
 それにも勝る不平等な制度が著作権の中に存在していた。
 さかもと未明
 日本へのペナルティ
 『今、洋楽カバーの音楽CDを作っているんですけど、私みたいにインディーズレベルで出すアーティストは、自分でJASRAC日本音楽著作権協会)に楽曲使用申請しなきゃいけないから大変。そのうえ私が歌いたいジャズのスタンダードや、古いシャンソンは、「敗戦国条項」って言われている著作権の延長措置がついている場合が多くて。普通なら著作者の死後50年で切れる著作権が日本に関してだけは60年なんですって。そういう楽曲使用の申請をする時、「日本は敗戦国なんだ」って切なくなりますよ』
 『新潮45』の編集Yさんと世間話をしていたら、彼が身を乗り出した。
 『そんな条例があるんですか?いまだ敗戦国扱いなんですか?いつまで続くんですか?』
 『そういえば、今まで「そいうものなんだ」と思って払ってきましたけど。いつまで敗戦国扱いなのかは、知りたいですね!』
 ということになり、私は早速JASRACに取材申請。すぐに取材を受けてくださり、薬師寺さん、藤井さんという2人の広報担当者が私の質問に答えてくれることになった。
 『戦中から戦前の著作物いついて、現在の著作権保護期間50年に約10年が加算されているのは事実です。それを「戦時加算」といいます。さかもとさんは「敗戦国条項」という言葉を使っていますが、どちらでお聞きになりましたか?』
 『周りのジャズの関係者の方などがよく使われるので・・・』
 『「敗戦国条項」という言葉は正確ではありませんが、心情的にそう言いたいのは分かります。現実を反映している言葉ですね』
 『失礼しました。では「戦時加算」を分かるように説明してくれますか?また、いつまで続くんでしょう。戦後70年も経っているのに、まだ敗戦を引きずっている感じがして切ないです』
 『実は我々JASRACも戦時加算の解消を求めているんです』
 と、『日本の音楽 世界へ 創造 育む機運』(2018年28日付、読売新聞朝刊)の広告記事を見せてくれた。岸田文雄自民党政調会長(前・外務大臣)と、『北国の春』で知られる作詞家のいではく先生(JASRAC会長)の対談記事である。こんな偉い先生が戦時加算の早期解決について語り合っている。私たちの感じた切なさは見当違いじゃないかと、ほっとしつつ説明を聴く。
 『戦時加算はサンフランシスコで1951年に締結された「日本国との平和条約」(サンフランシスコ平和条約)の第15条(C)に拠っています。相手国は、連合国の中でベルヌ条約著作権に関する条約)に加盟している15カ国。戦時中に連合国民の著作権を、日本が保護していなかったとして、その期間を加算する義務が課せられているのです。例えば米・英・仏などの国民が、戦前から著作権を有していた作品の場合、日本が参戦した1841年12月8日kら、平和条約発効前日の1952年4月27日までの3,794日(約10年5ヶ月)を、本来の保護期間の50年に加算して保護します。国によって平和条約の発効日が異なるため、加算期間は異なります』
 平和条約に署名した48カ国中、ベルヌ条約に加盟していた15カ国(アメリカ、イギリス、フランス、カナダ、オーストラリア、スリランカニュージーランドパキスタン、ブラジル、オランダ、ノルウェー、ベルギー、南アフリカギリシャレバノン)が対象になっている。
 ニュージーランドパキスタンレバノンは開戦日以降にベルヌ条約に加盟しているため、戦前から著作権が生じている作品の場合、それぞれ1,607日、1,393日、2,291日となっていて、日割で、細かく計算される。
 ……
 勿論、戦争のことは忘れちゃいけないし、決められたことは守っていくべえきだけど・・・敗戦の時に決められたことって、戦勝国に有利で、敗戦国には不利で不平等な取り決めになっているように思える。そういう歪んだ土台の上に構築された『戦後レジーム』の日本は、どんどん歪んでいかざるを得ないのでは。それはどこかで変えるべきだ。
 日本だけの不平等条約
 実は私は、サンフランシスコ平和条約全文を読んだのは、今回が初めて。『平和条約』と名がつくのだから、良いものだと勝手に思いこんでいた。でも、読んでみて気分が悪くなった。著作権は勿論のこと、第三章五条(鄴)『国際連合が憲章に従ってとるいかなる行動についても国際連合にあらゆる援助を与え、且つ、国際連合が防止行動又は強制行動をとるいかなる国に対しても援助の提供を慎むこと』というところは特に疑問に感じる。これって、日本は国際連合の子分ってことですか?『戦後レジーム』の問題点はみんなこれに起因しているんだと思った。著作権の問題は一般の興味を引くテーマではないかもと思って始めたけれど、戦後日本の問題の根幹に関わっていると感じた。それに今は、SNSが発達して誰もが発信者になりうる時代だ。著作権を知らないではもはや済まされない。
 これらの戦時加算は、気が付かない所で間接的に国民への負担が生じていることも問題だと思う。2012年時点で、JASRACの加算対象曲は3,000曲で、著作権使用料の概算は約1億6,000万円にも上っていた(JASRACが当時の岸田外相に戦時加算撤廃を要請した時のデータ。現在は特に対象曲数を算出しつしていないという)。
 『外国の文化を享受して、気づかぬうちに支払いをしている』ことは、ちょっと大げさに言えば、気づかないまま占領され続けている(と、私は感じている)戦後日本の根本問題を象徴している気がする。ちなみに日本と外国曲のコンテンツ使用料の貿易赤字は累積の一途。JASRACが海外の管理団体に送金している外国作品の著作物使用料は、JASRACが全世界から受け取る使用料の約10倍に上るという。この数字だけを見れば、文化的にも敗戦国のような気さえする。そんなことを考えていると、JASRACの方が説明を続けた。
 『連合国に対する敗戦のペナルティなら、ドイツ、イタリアにも科されていて当然ですよね。でも、戦時加算義務を負うことが定められたものの、結果として、約10年を加算するような義務を負わずに済んでいます。そもそも戦時加算は、国内の著作物を守るために、第一次大戦後にフランスなどの国が国内法で独自に始めたもので、他国に押し付ける筋合いのものではなかったはず。日本だけが連合国への一方的責務として負いました』
 第一次大戦後、国内の作家の著作権管理が十分でなかったとしたフランスなどが、国内法で著作権延長を認めたのが始まりなのだ。イタリアも約6年の加算があるが、相手国と双務的。一方的な加算を押し付けられてるのは日本だけ。悔しーい!
 『でも2007年、CISAC(著作権協会国際連合)の総会で、都倉俊一・前JASRAC会長が出席し、この戦時加算の解消を訴えました。これは、満場一致で採択されたんですよ』
 それは嬉しい!でもそれから10年も経っていますよね、なんで解消されないんだろう。訊ねると、CISACは民間の団体なので、法の改正には手が及ばないという。また、サンフランシスコ平和条約を変えるのは大変なおことなので、それとは別の取り決めを、各国と二国間協定として結んでいくしかないのでは・・・ということだった。
 ……
 これからの国際社会、経済や安全保障についての話し合いも不可欠だけど、文化や経済の共通ルールを作り、それにのっとって相手の懐に切り込んだ地道な交渉をできる国になることが大切だ。それを繰り返せば、日本は他の分野でも少しずつ戦後レジームを脱却し、当たり前の独立国家にきっとなれるだろう。いや、ならなくてはいけないのだ。戦争で苦しんだ方たちの慰霊のためにも」


   ・   ・  ・