🌪25¦─1─ハマってはならない中国「海警法」の罠。~No.103No.104No.105 ㉞ 

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 2021年2月26日 産経新聞iRONNA「ハマってはならない中国「海警法」の罠
 中国「海警法」の脅威を指摘する声が相次ぐには理由がある。それは、尖閣を巡って日本が対応を誤れば取り返しのつかないカラクリが隠されているからだ。もはや「中国公船」などと呼ぶのは甘すぎる。再三警告しているように、日本は現実を直視し、国際社会に向けた「世論戦」を仕掛けなければならない。
 中国「海警法」は極めて狡猾、日本が仕掛ける世論戦で尖閣を死守せよ
 柿沢未途衆院議員)
 2月1日、「中国海警法」が施行された。NHKのニュース報道では、「海上警備にあたる海警局に武器使用を認める法律が施行」と表現されており、他のマスコミ報道も「海警局に武器使用を認める」という点を強調しているが、これはそのように要約できる内容の法律ではない。
 海警法は、中国の国内法ではあるが、実際は国際法を無視して領海の外側に位置する接続水域、排他的経済水域EEZ)、そして大陸棚を勝手に350カイリまで延長し、そこまでを事実上中国の領海と見なすような一方的宣言をしているに等しいとんでもない法律だ。本法律では、これら海域を事実上の中国領海=国家管轄海域(海洋国土)とし、その海域を守るために中国海警局は他国の公船を排除するために武力行使に及んでもいいことになっているのだ。
 ことの本質は中国が勝手に「事実上の領海=国家管轄海域(海洋国土)を宣言して、それを守る」と言っている点にある。国内法でそう決まった以上、海警局は行政組織たるもの、法律で決まったことを実行しなければならない。中国海警局にとって、東シナ海南シナ海の接続水域、EEZ、大陸棚を他国の領域侵害から守るのは、法律上の義務となる。やらなければ担当者は自らの立場が危うくなる。彼らは必死で「守りに」くるだろう。左遷やクビがかかっているのだから。
 言うまでもなく、国連海洋法条約では沿岸国の主権が及ぶ範囲は領海(12カイリ)までであり、その外側の接続水域(24カイリ)、EEZの200カイリに主権は認められていない。
 接続水域では出入国管理や通関などの国内法適用、EEZでは資源探査や環境調査などの管轄権が認められているだけである。
 それを勝手に「国家管轄海域(海洋国土)」と名付けて、その海域で中国の主権や管轄権が侵害されていると見なせば、「他国の公船(例えば日本の海保巡視船)の航行を武器使用により排除できる」と海警法では定めている。国際法の初歩を学んだ大学生なら誰でも分かる、明らかな国際法違反である。
 もちろん中国が大学生レベルの国際法の知識を持っていないはずはないし、中国は国連海洋法条約を普通に批准している。そのため、それに違反する国内法を制定・施行するのは当然意図的だ。
 その意図の1つは間違いなく尖閣諸島にあり、海警法が「接続水域」における管制権を行使し、強制的措置をとることを海警局に認めている点からも明らかである。東シナ海にしろ南シナ海にしろ、中国が接続水域の実効支配による実益があるのは当面は尖閣諸島しかない。
 尖閣諸島沖縄県石垣市)の領海に侵入した中国海警局の船(海警1305)。船の前方に砲らしきものを搭載している=2019年8月、海上保安庁提供
 「接続水域」であるがゆえに、この海域には日本の主権も及ばない。つまり日本が国連海洋法条約を順守するならば、日本が中国の公船に強制的措置をとることもできない。しかも日本の主権が及ばない領域であるがゆえに、「日本の施政下にある領域」とされている日米安全保障条約第5条の防衛義務の範囲外でもある。
 米国のジョー・バイデン大統領に「尖閣諸島日米安保の適用範囲」と明言されて安心していても、「接続水域」にはその保障が及ばないことになる。
 それらをすべて分かった上で中国はこのような国際法違反の法律を制定・施行したに違いない。中国が尖閣諸島に当面は手を出さなくとも、海警局の公船で日本の海保巡視船を蹴散らし接続水域を中国船だけの海域にしてしまえば、もはや日本は尖閣諸島に近づけず、いくら中国が島に指一本触れなくとも日本の実効支配は空洞化してしまう。
 いわんやそれは「日本の施政下にある領域」という日米安全保障条約第5条の適用の根拠まで揺るがす事態につながりかねない。しかし、日本政府のこの問題に対する対応は非常に鈍い。1月29日には茂木敏充外相が「国際法に反する形で適用されることがあってはならない」とコメントしたが、自民党や世論からの批判に直面し、2月16日には「わが国海域での海警船舶の行動そのものが国際法違反」と批判のトーンを上げた。
 しかし、私としては「海警法そのもの」を「国際法違反」と断ずるスタンスを日本政府は今のところとっておらず、非常に対応不足と感じている。このまま事態が進展し、中国海警の公船が尖閣諸島の接続水域を埋め尽くしてから、「国際法違反だ」といくら非を鳴らしても「時すでに遅し」になりかねない。
 法施行直後の抗議のトーンが弱ければ「あのときに日本は何も言わなかったではないか」と、あたかも海警法を認めたかのように言われかねないリスクもある。
 その際に日本が遅ればせながら対抗措置をとろうとしても、事態が進展しているだけにその実行は困難を伴うだろうし、それどころか「日本が現状変更を仕掛けてきた」と中国に逆手にとられて「世論戦」に利用されかねない。かつての尖閣国有化時の苦い経験を忘れるべきではない。
 海警法の施行を機として、日本こそが国際社会に「世論戦」を仕掛けていくべきだ。中国自らが批准している国連海洋法条約を無視し、国際法違反が明らかである大陸棚までの「海洋国土」化は、国際法秩序に真っ向から挑戦する暴挙であり、国内法を装いつつその適用で力による現状変更を試みる野蛮な行為は断じて認められないと、当事者である日本が声を上げなければならない。
 そして南シナ海でそうであるように、米海軍の協力を得て、東シナ海における「航行の自由作戦」を日本も実行すべきである。まず、中国による国内法を利用した現状変更を認めない。そして日本列島から台湾へと伸びる「第一列島線」の内側を、中国の「海洋国土」とする試みを許さない強い姿勢、それらを今の段階から示さなければならない。
 もう1つ、日本に今すぐできることがある。それは中国海警局を「中国の第2海軍」として、軍事組織であると認定することだ。海上保安庁海上警察権を行使する組織として、それにふさわしい装備の巡視船や航空機を有し、日夜、海上の安全と治安の確保の任務にあたり、行政組織上も国土交通省の外局とされている。
 海上保安庁は海外の沿岸警備隊(コーストガード)とは異なり、戦時において軍隊の一部として参戦する準軍事組織という位置付けは持っていない。
 一方、中国海警局はもともと中国国務院国家海洋局のもとにある行政組織であったが、18年の組織改正により中央軍事委員会の指揮下にある人民武装警察(武警)の傘下に移行した。そして海警法では「重要な海上武装部隊」として中央軍事委員会の指揮のもとで「防衛作戦の任務を遂行する」と明確に位置付けられた。
 中国海警局は、中国人民解放軍の最高意思決定機関である中央軍事委員会が指揮する組織となったのだ。今や海警局は中国海軍少将が指揮をとるようになり、主要ポストも海軍出身者で占められるようになっている。
 装備においても、世界最大級の1万トン級の巡視船を少なくとも2隻有し、海軍艦艇と同水準の76ミリ砲とみられる武器を搭載した公船もあり、れっきとした「第2海軍」的組織としか言いようがなく、黒い軍艦を白く塗れば日本の海上保安庁と同じような行政組織と見なせるわけではない。
 このような海警局の船艇を「中国公船」と呼び続けるのは、実態は軍艦であるのにあたかも巡視艇のように扱われる点で、中国にいかにも好都合な状況になっているのではないだろうか。
 そして海警局を「第2海軍」と認定するのには実質的な意味がある。これまで海警局の船艇と対峙(たいじ)するのは海上保安庁の役割とされてきた。それは行政組織である(と見なしてきた)海警局に対して、海上自衛隊が前面に出れば、周辺事態をミリタリー・レベルに上げるエスカレーションを日本の側が起こしたことになってしまうからである。
 私自身、かつて海上保安庁海上自衛隊による領域警備にあたって、一体的かつ迅速な運用を可能にする「領域警備法」の議員立法案をとりまとめる役割を担ったことがある。
 そもそも尖閣諸島の海域で毎日のように緊張状態が起きているにもかかわらず、これまでこうした法律ができてこなかったのは、ミリタリー・レベルへのエスカレーションを日本の側が引き金を引くことへの懸念があったからでもある。
 だがそれは、中国海警局を海上保安庁並みの行政組織と見なしているからこそ生じる懸念である。「日本の領海や接続水域などで航行しているのは中国『第2海軍』の艦艇に他ならない」となれば、海上自衛隊と一体となった警備行動でもエスカレーションの引き金を日本が引いたことにはならない。そうすれば、日本で最も必要で差し迫っているのに存在しなかった「領海警備法」のような法律の制定も可能になるのではないか。
 もちろん海上保安庁の艦艇の装備増強の議論も必要であろう。国土交通省の外局のままでいいのか、という議論も出てくるかもしれない。外国の軍艦や公船に対する武器使用はできない海上保安庁法第20条の規定を改正すべきという意見もあるが、それらには一定の時間を要する。
 気が付いたら手遅れになっていた、対抗措置をとった頃には「世論戦」に負けて日本の側が現状変更勢力であるかのように仕立て上げられてしまったという悔恨を後に味わうことがないよう、日本にできること、やるべきことを今すべきである。
 それは尖閣諸島の領土と領海を守るためだけではなく、国際秩序の危惧される近未来予測を現実化させないために日本が果たすべき責任である。」
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