🎷11:─2─日本の大学は技術流出に甘い? アメリカが危惧を強める中国の“科学技術剽窃”問題~No.42No.43 

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 2021年9月30日 MicrosoftNews 文春オンライン「日本の大学は技術流出に甘い? アメリカが危惧を強める中国の“科学技術剽窃”問題…不満を抱える科学者たちの“本音”
読売新聞取材班
 待遇は5年で2億円…「中国政府の千人計画に応募しませんか」日本人44人が参加する“国家プロジェクト”の実態に迫る から続く
 自国の影響力、支配力を強化しようと、価値ある技術やデータの収集を進めている中国。そうした現状を危惧して、アメリカは中国に厳しい目を向ける。一方、日本の対応はどのようになっているのだろうか。
 ここでは読売新聞取材班の取材成果をまとめた『 中国「見えない侵略」を可視化する 』(新潮新書)の一部を抜粋。日本の学術界におけるリスク回避の問題意識を検証する。(全2回の2回目/ 前編 を読む)
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 外国が技術窃取を実行している実態を詳述
 世界から優秀な頭脳が集まり、研究成果が米国に還元されるはずが、気がつくと外国に流出していた──。
 米国立科学財団の委託を受けた科学者の諮問グループ「ジェイソン」が19年12月にまとめた報告書「基盤的研究の安全保障」(ジェイソン・レポート)は、米国のオープンな学術環境を悪用して外国が技術窃取を実行している実態を詳述している。研究インテグリティ(研究公正)を害するような外国の不正な影響行使の手法についても、情報機関などの協力を得て詳細に分析し、4つのタイプに分類した。
 1番目は、高額の給料、住居、立派な肩書や研究費、研究施設などの報酬である。こうした報酬は、米国を含む多くの国でも普通に見られるが、研究の公正さを害する行動を取らせる動機になり得ると指摘した。そうした行動には、承認を得ないで行う情報共有、試作品などの窃盗、米国の研究グループへの外国人留学生の参加を認めることなどが含まれる。報酬を所属組織に知らせないことが条件となっている場合もある。
 2番目は、詐欺的手法だ。外国人研究者が母国で軍や治安機関、軍系の大学などに所属していることを隠すことが代表的な例だ。米国に来て、極超音速やAIといった機微技術を学ぼうとしている留学生が、目的を偽ることもある。
 3番目は、脅迫や強制といった威圧的手法である。脅迫は、社会的な非難から肉体的な苦痛までを含む。外国人留学生の場合、情報収集などの依頼を断れば、母国から奨学金を停止されるといった形式を取る。法律によって情報機関や治安機関に協力するよう要請されることもある。米国の研究者の場合には、資金や名声、外国での特権的地位を失うと脅されることがある。人材招致プログラムの契約に、参加を明かさないようにする条項が含まれている場合、脅迫に使われると指摘している。
 4番目は、知的財産の窃盗だ。サンプル、試作品、ソフトウェア、文書やアイデアといった研究成果が失われることを意味する。外国人研究者は米国の研究者に比べ、研究中の知的財産を流出させやすいとしている。
 「米国の優位性が明確に失われている」
 同レポートはそのうえで、「米国の科学倫理の価値を損ねている」と中国に厳しい目を向ける。「中国政府だけが(標的となる技術の)情報収集をしているわけではない」としつつも、「おそらく最も強大で、組織されている」のが中国だと強調した。特に、国家情報法が国民に情報機関への協力を義務づけ、協力したことを口外しないよう求めていることに懸念を示している。そして、中国による研究への不正な介入が、「より長期的に見れば、経済安全保障や国家安全保障に対する脅威となる状況である」と分析を加えている。
 ジェイソン・レポートがここまで中国の脅威を強調するのは、学術研究成果で米国が中国に追い越されようとしていることも関係している。
 学術論文の発表数に関していえば、中国は13年までに、物理と宇宙に加え、化学、再生可能エネルギー、コンピューターサイエンス、量子コンピューター、AI、ナノテクノロジー原子力工学、物理科学、生物学などの分野で、米国をリードした。同レポートは、「21世紀のはじめの10年で、特に科学・テクノロジー分野における米国の優位性が明確に失われている」とし、「米国の国家安全保障にとって次第に重要になっているAIや極超音速などの分野において、中国が世界のリーダーであることは疑念がない」と認めている。
 こうした現状分析を踏まえ、レポートは「利益相反」の完全な情報開示の必要性を勧告した。外国人研究者については、出身国などから資金を受け取りながら、米政府や米国機関の助成も受けて研究を行っている場合、技術流出の懸念が生じるとし、「外国人研究者には全ての所属、学位、修了課程を開示することを求める」と明記した。情報開示を守らない場合には、研究成果の捏造などと同等の法的処罰を与えることにも言及した。
 ジェイソン・レポートを受け、国防総省や大学における基礎研究などに資金を提供する事業を行っている国立科学財団などは、研究資金の申請時に利益相反に関する情報開示を徹底する措置をとった。
 そのうえで、財団の研究費と外国研究費の重複受給を開示していなかった25のケースに対し、研究費の取り消しや停止の措置を講じたという。
 危機感も、規制も遅れる日本
 これまで見たように、米国では、外国との共同研究や資金受け入れの透明化を徹底し、安全保障上のリスクを取り除く取り組みが進んでいる。しかし、日本では危機感が薄く、千人計画への参加に関する規制は遅れている。
 読売新聞が21年元日の朝刊で日本人の千人計画参加の問題を報じると、ツイッターなどで「若手研究者が国内でポストを見つけられず、中国に行かざるを得ないことが問題だ」「日本で研究が続けられるように、中国より良い待遇にすればいいだけだ」といった反論があった。
 確かに、取材に応じた研究者のほとんどが、日本の科学技術政策への不満を口にした。北京航空航天大で17年から宇宙核物理学を研究する男性教授は、日本にいた時よりもはるかに多い、5年で約1億円の研究費を得た。男性教授は、「日本の研究者は少ない研究費の奪い合いで汲々としており、大学に残る人は減って、結果として科学技術力が低下している」と語った。
 日本では博士号を取った後、不安定な任期付きポストに就く「ポスドク(ポストドクター)」と呼ばれる研究者が多い。14年に中国に渡り、16年頃から浙江省の千人計画に参加している男性教授は、「研究職は中国の若い人にとって魅力的な職業だが、日本ではいつクビを切られるか分からないハイリスクな職業になっている」と指摘した。
 文科省によると、日本の科学技術予算は2000年以降、長らく横ばいが続き、20年には4兆3787億円だった。これに対し中国は、2000年の3兆2925億円から18年には28兆円となり、米国などを抜いて世界トップになっている。
 日本では03年に約1万2000人いた修士課程から博士課程への進学者が、18年は約6000人に半減した。引用論文数の国別順位でも、世界4位だった04~06年以降、中国やフランスなどに抜かれ、14~16年は9位に落ち込んだ。
 科学技術予算の増額やポスドク問題への対応は、日本政府が取り組まなければならない重要な課題である。政府も危機感を強め、21年度から、先端分野を専攻する博士課程の約1000人に1人あたり年間230万円程度を支給するほか、10兆円規模の基金を設け、若手研究者らの処遇改善などを進める。
 日本の研究環境の改善は必要だが、日本人研究者の千人計画参加問題に対するこうした観点からの反論の多くは、軍事転用可能な技術が安全保障に与えるリスクを軽視しており、一面的と言わざるを得ない。
 日本の大学が米国の名門大学とは共同研究ができなくなる?
 また、前述したように、千人計画に採用された日本人研究者の多くは、旧知の中国人研究者から厚遇で招致された。軍事転用可能なものなど、中国にとって価値のある技術や情報を持っているためだ。
 日本で教授などのポストが得られないため、中国に渡って研究を続ける若手研究者が、その時点で千人計画に採用されるケースは極めてまれだ。参加者の一人は、「応募資格条件がかなり厳しい。学位を取得した大学が世界の大学ランキングで200番以内といった条件のほか、受賞歴などの項目が20ぐらいあった」と証言する。議論する際には、若手研究者の研究環境と千人計画の間に直接的な関連は少ない点に留意すべきだろう。
 日本の研究環境が中国に比べて悪いからと言って、研究インテグリティに反するような技術流出に目をつぶっていい理由にはならない。
 現状のままでは、日本の大学は技術流出に甘いと、米国などから懸念をもたれかねない。
 「このままだと、日本の大学は最先端の研究で知られる米国の名門大学とは共同研究ができなくなる」
 経産省幹部はこう懸念を口にする。
 内閣府の委託事業として20年秋に設置された「研究インテグリティに関する検討会」(座長=白石隆熊本県立大学理事長)は、「研究開発活動における国際ネットワークの強化が推進される一方で、国際的に科学技術情報の流出等の問題が顕在化しつつある」として、研究インテグリティを確保する必要性を強調した。
 20年10月28日の検討会資料では、外国からの不当な影響について、「国家安全保障上の問題が生じる」「知的財産権を奪われる」「製造業等の市場を奪われる」「第三国の人権が侵害される」といったリスクを例示している。
 ところが日本の学術界は、こうしたリスクを回避する問題意識が欧米に比べ希薄だった。千人計画に参加していた日本人研究者の一部も、米国の基準などに照らせば、軍事転用を含む研究インテグリティに無頓着だったと言わざるを得ない。(読売新聞取材班)」
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