🏁12¦─10─日本企業や大学、町中華にまで広がる中国共産党の統一戦線工作部の魔の手。〜No.84 

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 2023年3月12日 YAHOO!JAPANニュース「日本企業や大学、町中華にまで広がる中国の情報窃取
 山崎文明 (情報安全保障研究所首席研究員)
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 中国の偵察用とみられる気球が、米国の軍事施設上空を飛行していたことが話題となっている。日本でも2019年から22年にかけて4回にわたって宮城県青森県など、自衛隊や米軍の基地がある安全保障上、重要なエリアで確認されている。
(BeeBright/gettyimages)
 防衛省は、これら日本の上空で観測された気球に対して、米軍が撃ち落とした気球に関する情報を基に、総合的に分析した結果から「中国が飛行させた無人偵察用気球であると強く推定されると判断した」と発表している。「気球」という一見無害にも見えるものが、機密情報を得るものであるということを見せた形となっている。こうした中国による情報窃取は気球だけでなくさまざまな形で行われている。
 習近平のもとで復活した統一戦線工作部
 その一つが中国共産党と統一戦線工作部(UFWD:United Front Work Department)の活動である。UFWDとは毛沢東の時代、1938年の中国共産党中央委員会第6回委員会総会で設置が決議された中国の建国(1949年)よりも歴史がある組織である。
 毛沢東は持久戦としての抗日戦争を掲げ、統一戦線を内外の敵から党を守る「中国共産党の魔法の武器」であるとした。中国が建国されて、その活動は下火となったが、2012年に習近平中国共産党中央委員会総書記になるや、UFWDは息を吹き返したのである。
 14年9月、習近平はUFWDに関する演説の中で毛沢東の言葉を引用して「中国共産党の魔法の武器」だとし、17年の第19回党大会では、「愛国統一戦線を強化し、発展させる。統一戦線は党の事業が勝利を収めるための切り札である」とした。習近平が総書記に就任してわずか数年間で、4万人の新しいUFWD幹部が誕生したといわれ、現在時点で、ほとんど全ての中国大使館や領事館にはUFWDで働く人員が含まれているといわれている。
 UFWDの使命は、国内外の産業界や市民生活における中国共産党の影響力を高めることであり、政府系非政府組織(GONGO:Government-Organized non-governmental organization)と見做される組織である。中国人民政治協商会議、国家宗教事務局、中国外交部、工商連合会の4つの中国政府部門は、UFWDの指導の下にあるとされている。
 中国財務省が公表したこれら4つの部門の予算総額は、14億ドル(2020年)で、中国公安部とほぼ同額であることがわかるが、UFWDの予算については全く公表されていない。ワシントンのシンクタンクであるジェームズタウン財団の推計によると、19年のUFWDの支出は26億ドル以上としており、中国外務省の予算を上回っているが、実際は、それよりも遥かに多いとの見方もある。
 この魔法の武器が今、過去に例をみないほど活発に活動をおこなっているのだ。
 中国共産党を脅かす5つの毒
 中国共産党が、その支配を脅かすと信じている「5つの毒」と呼ばれているものがある。それは「ウイグル人」、「チベット人」、「台湾独立支持者」、「民主主義活動家」、「法輪功精神集団」である。
 これらの毒を排除するためにUFWDは、それらの人々に迫害を加え、プロパガンダを繰り返してきた。その活動は主に中国国内であったが、近年、中国の国際世論の形成や中国人ディアスポラ(Chinese Diaspora)の活動の監視と報告に注力している。ディアスポラとは「離散した民族」という意味で、「離散中国人」とも呼ばれる。具体的には華僑や中国人留学生、中国人ビジネスマンなどの中国国外にいる中国人を指す。
 UFWDの中国人ディアスポラの監視活動は、スペインの人権監視団体セーフガード・ディフェンダーズが公表した昨年9月に公表した報告書「110 OVERSEAS Chinese Transnational Policing Gone Wild 」でいうところの「中国海外警察」が担っている。
 中国海外警察は、欧米など53カ国、102カ所の海外拠点(海外警察署)を擁し、表向きには世界的な腐敗防止キャンペーン「キツネ狩り作戦」を行っているとしている。「キツネ狩り作戦」とは、習近平が総書記に就任した12年から開始された、海外に逃亡した汚職官僚を追跡し、国内に連れ戻す作戦を指すが、その実態は中国の反体制派を、家族を脅迫するなどして中国に送還することである。
 米連邦捜査局(FBI)とカナダ安全保障情報局によると20年から21年にかけて、およそ680人が中国に送還されたとしている。これらの人々とは中国共産党が作成したブラックリストに掲載された人々であり、宗教施設に出入りしている者や反体制派の集会に参加した者などさまざまである。キリスト教の洗礼を受けた7歳の子供もブラックリストに載っていた例もあり、年齢制限はなさそうだが、そもそもこのブラックリストがどのようにして作られ、ブラックリストから削除される条件があるのかなど謎は多い。
 中国人にとっては、永久に危険人物となるかもしれない恐ろしいリストであるが、UFWDの活動は、中国人ディアスポラの監視だけではない。西側諸国の最先端技術情報や企業機密情報を入手するために行われた「千人計画」をはじめとして、「千粒の砂」と呼ばれる中国の諜報戦略に動員される華僑、学生、学者、研究者、ビジネスマンは多い。
 「千粒の砂」とは西側諜報機関が中国の諜報活動を例えて使用する言葉だ。海岸に落ちている砂の一粒が機密情報だとすると、ロシアのスパイは夜中にブルドーザーで1回に大量の砂を持ち帰り、中国は大勢の工作員が協力者とともに砂浜に寝そべり、背中についた砂を持ち帰る作業を何十年でも繰り返すのだという。事ほど左様に中国の諜報活動は、発覚しにくいという特徴がある。
 そのうえ組織としても官僚組織と違い、政府系非政府組織は、柔軟で素早いという利点がある。ロシアのウクライナ侵攻当初の失敗は、ロシア連邦保安局(FSB)、対外情報庁(SVR)、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)といった諜報部門の対立が指摘されている。また、米国においても中央情報局(CIA)、連邦捜査局(FBI)、国防情報局(DIA)、国家安全保障局NSA)などの諜報部門を複数抱えているために、縄張り意識や権力争いの結果として、あまりスムーズに行かないという官僚組織特有の問題がある。
 UFWDの場合は、2015年に「領導小組」を設け、習近平自らその委員長を務め、習近平の個人的な指示をUFWDに直接とどくようにしたことから、比較的運営はスムーズなようだ。
 米英の諜報機関が今、最も警戒する
 22年7月、FBIのクリストファー・レイ長官と英国防諜機関情報保安部(MI5)のケン・マッカラム長官がロンドンで記者会見を行い、UFWDに警戒するよう呼びかけを行っている。レイ長官は、米国議会議員候補を標的とした例や、遺伝子組み換え種子の情報を得るために、中国企業のために働いている人物を捕まえたことなど、FBIの調査結果を例に挙げた。マッカラム長官は、英国の航空宇宙部門を標的にした例を挙げ、MI5が英国での中国の活動に関して18年比で7倍の調査を行っていると述べている。
 UFWDの最も重要な任務は、中国に対する好意的な国際世論を形成することであるが、MI5は、21年1月にロンドンで法律事務所を経営するクリスティン・チン・クイ・リーに警告を出している。警告はUFWDに所属するリーが、労働党の下院議員バリー・ガーディナーに42万ポンド(約6500万円)を寄付したというものである。ガーディナー下院議員は、英国の原子力産業への中国の投資を支持するなど中国寄りの立場をとっているとされるが、このようなケースは他にも沢山あるだろうし、日本の国会議員にも似たようなケースがあるのではないだろうか。
 日本でも例外なく活動を続ける
 日本でもUFWDの活動は例外ではない。その一つに孔子学院がある。孔子学院とは、統一戦線工作部の議長だった劉延東元副首相が、04年に中国国家対外漢語教学領導小組弁公室(20年6月より中国の大学および企業・団体等による「中国国際中文教育基金会」に移管)のもとに設立したプロパガンダ組織である。
 表向きは、中国共産党が中国語教育と中国文化の紹介のために立ち上げた国家プロジェクトであるが、第17期政治局常務委員(序列5位)であった李長春は、孔子学院が中国の外国におけるプロパガンダ組織の重要な一部であると公式に認めている。孔子学院は今も統一戦線工作部と正式に提携している中国共産党プロパガンダ部門から資金提供されているといわれている。
 日本では05年から中国国際中文教育基金会と協定した立命館大学愛知大学早稲田大学など、全国で15の大学に孔子学院が開設されている(このうち工学院大学は21年に、兵庫医科大学22年に閉鎖を決めている)。孔子学院の設置には、法令による認可や届け出は必要がないため、文部科学省でもその実態が把握できていない。
 立命館孔子学院のホームページ
 米国では、トランプ政権時代にマイク・ポンペオ国務長官が20年に孔子学院は、中国共産党プロパガンダ工作に使われているとして、米国の孔子学院を統括している孔子学院米国センターを大使館や領事館と同等の外国公館に指定している。また、バイデン政権でもウィリアム・バーンズCIA長官が公聴会で「孔子学院は真のリスクだ。自身が大学の学長なら孔子学院を閉鎖する」と述べている。米国では、113あった孔子学院は、34にまで減少している。
 英国のスナク首相は、英国内の30校全ての孔子学院を閉鎖するとしている。同様にインドや豪州でも閉鎖に動きつつある中で、日本の動きはあまりにも遅いといえよう。
警戒心が全くない日本人
 UFWDの活動は、日本企業の奥深くまで食い込んでいる。特に企業への浸透はめざましく、そのほとんどは日本国籍を有し、名前も日本人として全く気づかれない通名(通称)を名乗っている。
 ほとんどの日本企業では、国籍や本名かどうかのチェックもなく採用されるため諜報は、容易い。また、諜報というと研究・開発部門が連想されるが、人事異動などにより、現在は、財務や人事部門にまで入り込んでいる。
 彼ら工作員は、協力者を多く抱えているが、中には自分が協力者であるとの自覚のない者もいる。UFWDの目的は、企業機密だけではない。華僑による日本企業への投資や、果ては、鍼治療クリニックの運営から、自衛隊員がよく行く町中華や政治家が好んで使用する永田町界隈の高級中華料理店まで、ありとあらゆるところにネットワークを張り巡らしている。
 気球のように分かりやすい脅威に対しても「安全保障に影響はない」との判断をするような国民には、「千粒の砂」を見破ることはできないだろう。
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 3月11日 YAHOO!JAPANニュース Wedge(ウェッジ)「小説『食われる国』にみる「戦わずして勝つ」中国の洗脳手法
 厚生労働省が2月に発表した2022年の出生数は79万9728人で1988年の統計開始以来、初めて80万人を下回り、過去最小を更新した。17年の国立社会保障・人口問題研究所の推計では出生数が33年に80万人を割るとしていたが、11年も早く更新したことになる。このまま人口が減少し、国力は衰えていくのだろうか。
 2050年の衰退した日本を予測したディストピアSFとでもいうべき小説が『食われる国』(中央公論社)である。2050年、中国資本が大量に流入し、かつて栄えた都市も廃墟と化した中で一人の刑事が日本で暗躍する中国共産党の配下組織に嵌められ、中国資本で運営されている民間刑務所に収容される。犯罪者の更生教育という名目のもと、中国共産党の思想に洗脳されていく様を描いた傑作小説である。
 主人公である刑事、谷悠斗が日本政府から中国資本に運営を委託された民間刑務所「黒羽教育センター」で受ける中国共産党を正当化するための洗脳シーンは、非常に説得力があり、筆者も思わず洗脳されそうになるほどである。黒羽教育センター教官の言葉「ハワイ併合やテキサス独立の話を教室で先生から聞きますか。原爆を二つも落とした国なのに、アメリカに都合の悪い事実は隠され、アメリカに親しみと憧れを抱くように仕向けられている。それは洗脳ではありませんか」は、改めて米国のしたたかさを思い出させてくれる。
 政府が中国資本に刑務所の運営を任せることなどあり得ないと感じる日本人は多いだろうが、それはそういう事態を想定していなかった上に、今まで、そうしたことが起こらなかったからに過ぎないことを改めて思い知らされる。刑務所の運営委託業務も政府が何事にも適応させている「最低価格落札方式」を取れば、中国資本が落札することも十分ありえるのだ。
 事実、警察で使用されているPCやセキュリティソフトには「最低落札価格方式」が採用されているため、中国製PCやロシア製のセキュリティソフトが使用されている例は多い。小説の中にしばしば登場するスマホ「エア」も著者の萩耿介氏によると中国製という設定だそうだ。警察で採用されている捜査用スマホも私物のスマホも「エア」という設定で、位置情報や会話の内容など、すべて中国に筒抜けになっている状態は、現在進行形と言っていいだろう。
 現実に即した迫害とプロパガンダの姿
 『食われる国』萩耿介著
 この小説には、中国共産党統一戦線工作部の名前こそ登場しないが、日本で暗躍する中国共産党配下の組織とは統一戦線工作部のことを指している。統一戦線工作部(UFWD:United Front Work Department)とは、毛沢東が持久戦としての抗日戦争を掲げ、国内外の産業界や市民生活における中国共産党の影響力を高める政府系非政府組織(GONGO:Government-Organized non-governmental organization)組織である。
 毛沢東は、統一戦線を内外の敵から党を守る「中国共産党の魔法の武器」であるとした。習近平国家主席が2012年に中国共産党中央委員会総書記になってからUFWDの活動を活発化させているのは「日本企業や大学、町中華にまで広がる中国の情報窃取」で指摘した通りである。
 この小説でも、治外法権の壁に囲まれた中国大使館が、悪の巣窟の一つとして描かれ、孔子学院が「中国文化の紹介を装いながら、共産党の力を浸透させることを狙った宣伝機関」と紹介されている。孔子学院は北米や豪州、ヨーロッパで、中国のプロパガンダ組織であるとして続々と閉鎖が命じられているのに対し、日本では立命館大学札幌大学早稲田大学など現在も13校が開設されている。
 中国共産党の支配を脅かすと信じられている「ウイグル人」「チベット人」「台湾独立支持者」「民主主義活動家」「法輪功精神集団」の「5つの毒」を排除するためにUFWDは迫害を加え、プロパガンダを繰り返してきた。本作品の中でも日本で暮らすウイグル人チベット人を中国秘密警察が拉致する様子が描かれているが、この中国秘密警察もUFWDの配下組織である。
 秘密警察の存在は、先頃、スペインの人権監視団体セーフガード・ディフェンダーズが公表した昨年9月に公表した報告書「110 OVERSEAS Chinese Transnational Policing Gone Wild 」で話題になった。欧米など53カ国、102カ所の海外拠点(海外警察署)を擁し、華僑や中国人留学生、中国人ビジネスマンなどの中国国外にいる中国人ディアスポラ(離散した民族の意)を監視し、中国の反体制派を、家族を脅迫するなどして中国に強制的に送還している。米連邦捜査局(FBI)とカナダ安全保障情報局によると2020年から2021年にかけて、およそ680人が中国に送還されたとされている。
 指をくわえて見逃す日本の未来像
 中国共産党プロパガンダや浸透工作、諜報活動は、100年、200年の単位で計画され実行されることから、自分たちの国が中国共産党に侵食されていることを自覚している政治家は少ない。
 本書にも登場する中国資本による土地の買い占めは、都市部の物件のみならず、農地や魚港、果ては離島にまでその食指は伸びている。また、外国資本による太陽光や風力発電施設の建設が認められるなど、政治家は、恣意的無策や、中国寄りと非難されても仕方がない政策を繰り返している。
 この小説は、わが国の防衛意識の低さが招いた不備を、中国共産党が巧妙に突き、次から次に罠に嵌っていく日本人の脆弱な姿に気づかせてくれる。孫氏の兵法の極意である「戦わずして勝つ」を端的に表した中国共産党の恐ろしさや狡猾さを疑似体験させてくれる良書である。
 著者の萩耿介氏は、数年前にチベットに行き、街中至る所に監視カメラがあり、軍事車両が警戒に当たっている様を目の当たりにしたことで、中国共産党の欺瞞と恐ろしさを、日本を舞台にして描けないかと思ったそうである。英国の作家ジョージ・オーウェルが1949年に出版したディストピアSF小説1984』は、小説の舞台を英国においているものの、スターリンを念頭に共産主義ファシズムの倒錯を暴露する目的で書かれた。そうであれば、習近平と向き合った作品も書くべきだと思ったそうだ。
 一方で、「日本の小説界は、大半が私生活にしか関心のない書き手と読み手で成り立っていて、それこそ純粋な文学であるという人たちの避難場所になっている。彼らは口癖のように『弱者に寄り添う』と言いますが、チベットウイグルの人たちの苦難にはほとんど反応せず、私生活での平穏を尊び、慰め合っているようです」とも語っている。
 筆者はその意見に、全く同意する。この小説は、そういう意味でも、近年まれに見る傑作小説だといえる。
 現実として訪れる時はすぐ近くに
 中国では、2月28日に中国共産党第20回中央委員会第20回総会が終了したが、中国政府の公安部として知られる国務院国家安全部が、国務院に所属しなくなると香港の明報新聞が報じている。その報道の真偽は組織改革案の提出を待つほかないが、仮にその報道が正しければ、公安機能を政府から切り離し、中国共産党の配下に置こうとしていると思われる。
 もとより中国政府から独立している統一戦線工作部と一体化し、全ての公安機能を習近平の意のままにしようということである。もしその組織改革が実現すれば、今以上に日本への浸透工作も活発に行われることになるだろう。
 本書は、2050年という時代設定だが、日本の少子化と同様に、想定よりも現実がはるかに早いかも知れない。続編を期待する。
 山崎文明
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