💸30¦─1─日中賃金格差。いよいよ日本と中国の「人件費」が逆転しつつある。〜No.134No.135No.136 

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 2022年6月15日 MicrosoftNews 現代ビジネス「いよいよ日本と中国の「人件費」が逆転しつつある…いま日本が迫られている「根本的な転換」
 加谷 珪一
 中国経済成長の限界を迎えていることから、同国が世界の工場ではなくなる日が近づきつつある。これまで日本の産業界は、中国の安価な労働力に頼ってきたが、抜本的な戦略転換が求められるかもしれない。
 中国が「世界の工場」になれた理由
 中国は、過去30年にわたって世界の工場としての役割を果たしてきた。1990年時点における、世界の輸出に占める中国のシェアはわずか1.1%(当時の日本のシェアは7.4%)だったが、90年代半ばから中国は急速に輸出を増やし、2004年には日本とシェアが逆転。現在では世界シェアの10%を超えており、断トツのトップとなっている(ちなみにドイツは7~8%前後を維持しているが、日本のシェアはわずか3.6%にまで低下した)。
 中国は所得が低く、安価な労働力を武器に工業製品を大量生産できた。これは戦後の日本とまったく同じ状況であり、中国は日本に代わって世界の工場としての地位を確立したといってよいだろう。現時点において中国と同程度のコストで工業製品を生産できる国はほかになく、あえて比較するならメキシコくらいである。
 中国の工場(2005年)〔PHOTO〕Gettyimages© 現代ビジネス 中国の工場(2005年)〔PHOTO〕Gettyimages
 世界最大の消費大国である米国は、中国やメキシコから安価な工業製品を大量に仕入れており、これが米国人の旺盛な消費欲を満たしてきた。消費が活発ではなかった日本も、社会が成熟化するにつれて、多くの工業製品を輸入に頼るようになり、今では生活用品はもちろんのこと、スマホや家電など単価の高い工業製品についても、中国から輸入している。
 製造業にとっても中国は欠かすことができない存在である。日本企業の多くはコスト対策から生産拠点を次々に海外に移したが、その有力な移転先のひとつが中国だった。日本の製造業にとって中国ほど安価で、一定品質の製品を製造できる地域はなく、多くのメーカーが中国なしでは事業を継続できない状況となっている。
 中国が世界の工場としての役割を果たすことができたのは、すべては所得の低さによるものであった。1990年代前半における中国の1人あたりのGDP国内総生産)は、日本の70分の1しかなく、圧倒的に人件費が安い国だった。だが、その状況は、大きく様変わりしつつある。中国が輸出大国として成長するにつれて人件費も大幅に上昇し、今では1人あたりのGDPは日本の3分の1に達している。
 日本の3分の1と聞くと、まだ安いというイメージを持つかもしれないが、現実はそうでもない。この数字は所得が低い内陸部を含めた中国全体の平均値であって、工場が多く建設されている沿岸部についていえば、すでに日本よりも生活水準が高く、日本の方がコストが安いケースが出てきているのだ。
 中国の生産コストは一部では日本を上回る
 製造業がどこでモノを生産した方が有利なのかを示す指標のひとつにユニット・レーバー・コスト(ULC)と呼ばれるものがある。これは生産を1単位増加させるために必要な追加労働コストを示している。すでに中国全体のULCは日本と拮抗しており、沿岸部に限定すれば、日本よりも高くなっているのが現実である。あくまで生産コストという視点ではあるが、日本はもはや中国よりも人件費が安い国になっており、中国は低付加価値な工業国ではなくなっている。
 中国の1人あたりGDPが日本の3分の1しかないにもかかわらず、中国のULCが上昇しているのは、中国の人件費の高騰に加え、社会の成熟化に伴って、生産が以前よりも鈍化しているからである。その理由は、中国企業のビジネスモデルの変化にある。
 繰り返しになるが、中国企業における最大の強みは人件費が安いことであった。このため中国企業は、安い工業製品の大量生産に特化することで利益の絶対額を稼いでいた。ところが人件費の高騰から企業は事業モデルの変革を迫られており、比較的付加価値が高い製品の製造にシフトしていると考えられる。このため生産数量が以前ほど伸びておらず、生産の1単位増加に必要なコストも上昇しているのだ。つまり、中国はかつてのような、安価な工業製品を製造する国ではなくなっていることをこのデータは示している。
 実は世界を見渡しても、中国と同じような役割を果たせる国はメキシコくらいしかない。人件費が中国やメキシコより安い地域はいくらでも存在するが、質の高い労働者が育成されていなかったり、生産インフラが貧弱だったりするので、両国のような生産は実現できないケースが多い。
 中国は近年、成長率の鈍化という問題に直面しているが、その理由は中国人の所得が上がり、安い製品を大量生産出来なくなったからである。中国政府もこうした状況について認識しており、同国の経済構造について、輸出主導型から内需を中心とした消費主導型へのシフトを進めている。近い将来、中国による安価な工業製品の輸出は相対的に減少する可能性が高い。
 中国の「代わり」を探すのは困難
 中国社会の変質は、同国の安価な労働力に依存してきた国にとって大きな痛手となる。米国はすでに中国と貿易戦争状態となっており、中国との貿易を縮小する一方、中南米との取引を拡大している。メキシコのULCは中国の約3分の2なので、まだ安価な工場としての役割を果たすことができる。
 もっともメキシコは労働コストは安いものの、輸出量という点では中国の6分の1しかなく、中国の輸出のすべてを代替することは不可能である。また米国とメキシコは隣接しており、もともと米国との関係が密接な地域である。メキシコは今後、工業製品の輸出をさらに増やす方向性だが、米国との関係もより強化される可能性が高い。
 そうなると、もっとも困るのは日本である。
 日本にとって最大の貿易相手国はすでに米国ではなく中国となっており、輸出入とも中国との取引がもっとも多い。今後、中国が以前のように安価な工業製品を輸出できなくなった場合、メキシコを隣国とする米国とは異なり、代替品を探す難易度はかなり高くなると予想される。
 これまで100円ショップのようなビジネスは、中国メーカー頼みだったが、場合によってはさらに人件費が安い国からの調達に切り換える必要がある。だが中国メーカーのような生産力は期待できないので、単価は割高にならざるを得ない。製品によっては国産の方が価格が安いというケースすら出てくるだろう。
 安価な製品の製造であっても、国産に切り換えれば、当該製品への支出は国内に落ちるので、国民の所得向上につながる。だが、こうした状況は、かつての貧しかった日本への回帰を意味しており、必ずしも喜ばしいこととは言えない。
 いずれによせ、中国に対して安価な工業製品の供給基地としての役割は、もはや期待できなくなりつつある。日本の製造業はどこでモノを作って、誰に売るのか、根本的な戦略転換が必要であり、一方で輸入企業は、どのようにして低コストな調達を実現するのか、頭を悩ますことになる。」
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