🎷102─1・B─欧州の日本研究の若き研究者が「日本社会も劣化している」と語る理由。~No.415 

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 2023年10月28日 YAHOO!JAPANニュース 現代ビジネス「日本大好きで留学した欧州の若手研究者たちが「日本ヤバイ」と感じた理由
 日本好きな研究者が見た日本 前編
 著者 栗田 路子
 『セーラームーン』『NARUTO』『鬼滅の刃』『ポケモン』などの日本のアニメは、アジアのみならず欧米でも大人気だ。「日本に来て感動したこと」としては「電車が時間通りにくる」「街が清潔」などが挙げられることも多い。
そうして日本を好きになってくれた若者が日本の研究をするとは、なんと嬉しい話だろう。
 しかしベルギーに暮らすジャーナリストの栗田路子さんが参加した「日本研究カンファレンス」では、想像を超えた「研究結果」が発表されていた――。以下、栗田さんが見聞きしたことを寄稿いただいた。
 日本語堪能な研究者たちが1000人以上
 今年夏、私の住むベルギーの古都ゲントの大学に、まるで日本人かと耳を疑うほど日本語が堪能な研究者たちが、世界中から1000人以上も集まっていた。コロナ禍明けて4年ぶりに、対面で開催された『ヨーロッパ日本研究協会(EAJS)』が開催するカンファレンスでのことだ。
 ヨーロッパ日本研究協会(EAJS)が開催されたゲント大学 撮影/栗田路子
 私は30年来、多くの日本研究の学者たちに出逢ってきたが、彼らの日本理解の幅と奥深さ、そして日本への愛にはいつも仰天してしまう。何度も何度も日本に足を運び、合計すると何年も日本に住み、平均的日本人以上かと思うほど日本の新聞や雑誌に毎日のように触れて、「日本の家族」と呼ぶほどの近しい人々や友人のネットワークをしっかり培っている。
 運河が張り巡らされた美しいゲントの街並み 撮影/栗田路子
 EAJSは1973年設立。かつて、日本研究(Japanese Studies)といえば、歴史や文学、美術や伝統芸能というのが研究テーマの中心だった。学者には、純文学者や芸術家タイプが多かった。その後、2桁経済成長期には、日本式経営が持てはやされて、経営学や組織論などのテーマが増えた。バブルがはじけた後には、世界中で、日本アニメが脚光を浴び、書店に「MANGA」が並び、世界の人々が日本にのめり込むきっかけはがらりと変貌した。
 欧州では「MANGA」がずらりと並ぶ書店のコーナーが珍しくない Photo by Getty Images
 ベルギーでも、『ポケモン』や『NARUTO』はもちろん、最近では『鬼滅の刃』(ただし『Demon Slayer』として)なども大人気で、コスプレ・イベントやマンガの専門店ばかりか、キミョウな日本語らしき看板を掲げたグッズショップまである。このようにして日本が好きになった若者が増えている今、日本研究でも「ポップカルチャー」に焦点が当てられているのかと私は予想していた。
 日本の今を見透かしたような社会問題がずらりと
 ところがどうだろう。200以上ものワークショップのテーマを一覧して、思わずのけぞってしまった。「安倍元首相暗殺と統一教会」「差別的言動を煽るメディア」「非正規移民と入管問題」「低迷する若者の政治参加とシルバー民主主義」など、まるで、日本のリベラルメディアを見ているかと錯覚するほどだったからだ。
 ヨーロッパ日本研究協会(EAJS)のプログラムを見て衝撃を受けた 撮影/栗田路子
 イマドキの若手学者たちは、日本の社会現象をリアルタイムで見ている! 昔ながらの俳句や能狂言、かつて一世を風靡したKanbanやJust-in-time、アニメやコスプレばかりをほめそやしているわけじゃないんだ、と。
 一般的なヨーロッパ人に聞けば、今でも、「日本人は優しくて寛容」「日本は豊かなハイテク立国」と大褒めし、「いいね」イメージに引きずられている人が多いのは事実だ。でも、私は悟った。「やばい! ここにいる最先端の若手研究者は、日本の現状を、すっかり見破っている!」と。 
 若手を指導する立場にある欧州在住の中堅学者に聞けば、日本研究において「社会問題」が研究テーマに急増したのは、「2010年代頃」からだという。靖国慰安婦在特会などが国外メディアでも伝えられると、大学院の学生たちは、差別やヘイト、分断や右傾化などに関心を持ち始めた。彼らの中では、ニッポンカイギとか、モリカケサクラとか、ヘノコとか、そんな語彙が普通に飛び交う。
 20~30代の若手は、子どもの頃から、日本のマンガ、アニメ、ゲーム、コスプレなどのポップカルチャーに惹かれて日本研究の世界に入った「ミレニアル世代」だ。「日本大好き」から日本語を学び、日本社会に浸るために留学し、日本人の友だちをたくさん作ったという学生も多かったようだ。彼らは、「日本っていいね」の真っただ中にいたのだ。
 でも、飛び込んだ「大好きな」日本で、在特会が街を練り歩いていたのに遭遇した人も少なくなかった。SNS上にネトウヨ・パヨクの差別言葉が溢れ、恋い焦がれていた日本像ががらがらと崩れていったという人もいる。日本への熱い思いから覚めて、離れていく大学院生や研究仲間の後ろ姿もたくさん見送ったという。
 それでも、今もなお、日本をテーマに研究する彼らの心の内を聞いてみた。
 東日本大震災に遭遇したウクライナ人女性
1)ロシアによる偽情報に操作される日本人のウクライナ感情を研究するオレナ
ドイツFAU(フリードリヒ・アレクサンダー大学エアランゲン・ニュルンベルク)哲学・神学部 中東および東アジア言語文化研究所にて、日本研究で博士を目指すオレナ 撮影/栗田路子
 ウクライナ人としてチェルノブイリを身近に育ったオレナが日本に留学したのは2010年。幼い頃から、母 の書棚にあった松尾芭蕉石川啄木に親しみ、キーウ大学では日本文学を専攻。日本研究で博士を目指すためにウクライナからドイツに移住した。日本で学びたい! ようやく夢かなって筑波大学大学院に留学した翌年3月、彼女はなんと東日本大震災に遭い、福島第一原発事故を経験してしまう。彼女が住んでいた茨城県福島県南部に隣接。つくば市でも震度6弱とかなりの揺れだった。地震がほとんどないヨーロッパ育ちの彼女には恐怖の体験だった。
 これほどの大地震原発事故に遭っても、落ち着いて互いをいたわりながら生きる日本人を間近に見て感動し、日本のニュースや政府の指示をすっかり信じて従った。同時に、「チェルノブイリと福島の2度の原発重大事故を経験した数少ない学者」として、日本がいかにして事故を転機に脱原発していくか、メディアはその過程にどんな役割を果たすかを博士論文の研究テーマにしようと考えた。
 311より5年後、浪江市沿岸部から撮影された福島第一原発 Photo by iStock
 欧州経由でメルトダウンが起こっているという情報や映像が届いたが、日本でそれが知らされたのはずっと後になってのことだった。「日本国内にいても原発事故の詳しい情報が入手できるとは限らない」と悟った。むしろ、ドイツから日本の情報やメディアを追って大局的に見つめた方がよいのではないかと考えて欧州に戻った。ドイツでは、福島での原発事故をきっかけに、「脱原発」が決断された。日本でも同じように、一旦停止した全国の原発は二度と稼働されずに、再エネ転換が加速すると信じた。
 ところが、当初のショック状態から覚めると、日本社会は変革の気運を日増しに失っていったようにしか見えなかった。メディアは「日本には(化石)資源が乏しいし、再生エネは高くつくから、原発やむなし」との論調が増え、日本の友人知人はいつしか「ショウガナイ」を繰り返すようになっていた。
 ロシアのウクライナ侵攻で日本のSNSを見ると…
 日本からもどって10年余りが過ぎた2022年2月末、博士論文のテーマを変える出来事が起きた。突然、ロシアが祖国ウクライナに侵攻したのだ。オレナは、日本語の世界で、「#ウクライナ」とついたツイートやウクライナ侵攻に関連するSNSの収集と解析に着手した。意味上の分類と数量的な解析、発信元はどこの誰かといった分析だ。ウクライナ語、日本語、ドイツ語以外に、ロシア語や英語も堪能なオレナは、ロシア当局が、世界各地で様々な言語で拡散し始めたSNSの情報をそのまま理解することができる。
 ウクライナは2022年2月24日に突如として戦地となってしまった Photo by iStock
日本人向けには、ロシア当局は日本語で情報拡散しているが、実際は、他の言語とほぼ同じ内容で同じ論旨であることがすぐにわかった。当初、ウクライナに同情的だった日本語のSNS空間では、ロシアによる情報拡散が進むにつれて、反ウクライナ・親ロシア的な内容の投稿が増えていく様子が見てとれたという。
 メインストリームのメディアなら、情報工作が直接影響することは少ないだろう。だが、そもそも日本のジャーナリズムは現地ウクライナウクライナ政府からの一次情報に乏しい。疑ってみることに慣れていない日本人は、それらしい体裁をとっていれば、SNSによる戦略的情報誘導にとても弱いように見えた。
 また、オレナの研究によれば、ロシア当局が拡散する親ロシア・プロパガンダは、ここ10年ほどの間に勃興した新右翼メディアや論客による陰謀論的な主張と内容的に驚くほど重なっているのだという。ロシアの偽情報や陰謀論が、いかに一部の政治家たちに強く影響し、利用されているのかを検証することも、オレナの博士論文のテーマの一部なのだというから、驚いた。たとえば、最近、渡航中止勧告の出ているロシアを訪問してニュースとなった鈴木宗男氏(当時、維新の会)は、「アメリカの狙いはウクライナでの戦闘をわざと長引かせることで西側の武器産業を潤わせること」などの言説を発信していた。これはかねてからSNSでロシア当局が拡散してきた内容とぴたりと重なっているのだという。
 日本文化や空手に魅了され…
 母の書棚にあった日本文学から日本に魅了されていったオレナ。同時にKARATEを通して日本精神に触れた。オレナはその後、ミレニアル世代の日本ファンらしく、マンガやアニメなどのポップカルチャーにも親しみ、1年間の留学以来、何度か訪日するうちに、今では、日本の陶芸にハマっているという。「好きな陶芸家は?」と聞くと、濱田庄司、伊勢崎淳(崎は本来はたつさき)、橋本忍、安部太一、小川綾、田村文宏……と私の知らない名前をすらすらとあげた。現在は博士論文の仕上げに追われている。
 「日本は大好き。でも、日本のような豊かで平和な国に生きているとそれに慣れてしまって、社会をよくしたい! みたいなチャレンジ意欲がなくなってしまうのではないかと思う。女性の社会的地位の向上とか、様々な少数派の人権問題とか、できることは山ほどあるのに……」とオレナはため息交じりで話してくれた。
 ◇後編「偽情報や陰謀論…「日本好き」欧州の若き研究者が「日本社会も劣化している 」と語る理由」では小林よしのり作品を分析する旧東ドイツ出身女性、安倍首相の暗殺にまつわるSNSを分析するベルギー人男性の研究も紹介。欧州の若手研究者から見える日本の現在地についてさらにお伝えする。
 後編「偽情報や陰謀論…「日本好き」欧州の若き研究者が「日本社会も劣化している 」と語る理由」はこちら
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 10月28日 YAHOO!JAPANニュース 現代ビジネス「偽情報や陰謀論…「日本好き」欧州の若き研究者が「日本社会も劣化している」と語る理由
10/28(土) 18:03配信
 「日本のアニメから日本が好きになった」
 「旅をして清潔さや電車の時間が正確なことに驚いた」
 これはSNSにも集まる「日本が好き」という海外の方の声の一部だ。
 しかし日本が好きで研究を始めたら、また別の面が見えてくることもある。
 【写真】黒のホットパンツで「小林よしのり」マンガの発表…3人の若き研究者たち
 ジャーナリストの栗田路子さんはベルギー在住。先日『ヨーロッパ日本研究協会(EAJS)』が開催するカンファレンスに参加すると、驚くような研究発表がなされたという。
 「何度も何度も日本に足を運び、合計すると何年も日本に住み、平均的日本人以上かと思うほど日本の新聞や雑誌に毎日のように触れて、”日本の家族”と呼ぶほどの近しい人々や友人のネットワークをしっかり培う」ような研究者たちが「日本ヤバイ」と感じ、それを発表していたのだ。
 栗田さんが研究者たちの伝える日本について綴った前編では、東日本大震災原発事故があってもなお「ショウガナイ 」で原発依存を受け入れたり、ウクライナ侵攻の偽情報でも疑うことを知らなかったりする日本人の姿に直面したウクライナ出身女性の研究をお伝えした。
 後編では陰謀論や偽情報が飛び交う現状を扱う2人の研究内容を栗田さんの寄稿によりお伝えしていく。
 「小林よしのり」マンガの研究を
 写真:現代ビジネス

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2)偽情報や陰謀論の拡散にマンガがどれほど有効かを「小林よしのり」から分析するリンダ

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 「小林よしのり」マンガが、コロナ禍で偽情報や陰謀論拡散にどれほど威力を発揮したか――。黒いショートパンツでぴしっときめたリンダが、こんなことを研究しているなんて、日本のだれが想像できるだろう。
 リンダによれば、小林のマンガは、劇的なヴィジュアルと激しい言葉遣いで、日本の大衆を「グローバリズムに侵されて主体性なく情報をうのみにする『コロナ脳』になっている」と厳しく批判する。一方で、「ファシズム全体主義を正当化したり、歴史修正主義的な主張をまくしたてたりと危ない」方向を指向する。相反する論旨を同時に感情的に浴びせかけるやり方は、「今、世界中で同時多発的に勢いを増している新右翼の『歴史修正と陰謀論のからくり』にそのまま重なる」のだとリンダはいう。
 日本のイメージは? と聞くと、「若いころはもっとずっとポジティブだったのは間違いない」と前置きしながら、「でも、私の生い立ちのせいか、若い頃から、政治や政党などには懐疑的だったし、日本人は二言目には『日本は特別』と言うけど、私は全然そうは思わなかった。日本で起こることは戦後の近代史というコンテクストでは、超国家的な現象として世界中で起こっていることの一環に見えるから……」と冷めた様子で話してくれた。
 リンダは旧東ドイツ出身。日本のポップカルチャーには惹かれたけれど、大学で日本研究を選んだのは、実は、ハードルが低かったからと本音も隠さない。
 「日本ではあまり知られていないかもしれないけれど」と断りながら、ベルリンの壁崩壊後の旧東独では、過激なネオナチ・ギャングが跋扈し、自分は暴力的に価値観を揺さぶられながら幼少期を過ごしたのだと説明してくれた。「国も、警察も、司法も、どんなに正義を振りかざしていても、ギャングたちを取り締まって市民を守ってなんてくれないってことを肝に銘じながら育ったの」と。
 選んだ日本の留学先が沖縄だったことも、日本の政治や政策を批判的に見ることに強く影響しているというリンダ。彼女には沖縄が本土決戦を防ぐための捨て石にされたことも、無理筋すぎる辺野古基地の問題も、ウチナーンチュの視点で見てしまうのだという。
 随分、クールで辛口に聞こえるが、そんな彼女も、日本に半生を注いだことを後悔してはいない。つぎ込んだ時間とエネルギー、多くの友人・知人や家族のように親しい人々との交流を通して、「日本」は、今では切っても切り離せない自分の中核をなしているという。
 客員研究者として慶應大学
 写真:現代ビジネス

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3)安倍元首相暗殺を境としたSNSでの投稿の質的量的激増を最新手法で解析するスティーヴィ

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 ベルギー人のスティーヴィは、コンピュータ・サイエンスが専門で、「日本」は趣味のようなものだったという変わり種だ。ChatGPTの登場で急に身近になったAIとビッグデータ解析手法を日本研究の世界に初めて導入したことで、彼の研究は今、注目されている。
 安倍元首相暗殺事件後に激増した統一教会関連のX(元ツイッター)を始めとするSNSでの投稿は、とてもマンパワーではさばききれない膨大な量だった。だが、最先端のテクノロジーを用いれば、意味的・量的両面から解析できるとスティーヴィは直感した。SNSを用いた陰謀論や偽情報拡散の実態をとらえ、国境を越えて猛烈に広がるデジタル・ポピュリズムの戦術を理解しようという試みだ。スティーヴィは9月から客員研究者として慶應大学に在籍する。
 「日本について? 最初のうちは、何も知らずにナイーブに大好きだった。他の若い子たちと同じように、アニメ、マンガ、ビデオゲーム、コスプレなんかがきっかけでね。大衆メディアやネットコミュニティに影響されて、日本にも他の国々と同様にあるいろんな問題を無意識のうちに見ないようにして、好きな日本だけを見てたと思う。
 僕の場合、大学での専攻は情報科学で、『日本』はおまけみたいなものだった。そして、理系の勉強をするうちに、むしろ、人文科学に興味が湧いていった。ハイテクを用いて人間や社会を理解すること、逆にそれが人間や社会にどんな影響を与えるかということにね」
 「日本社会の劣化」は研究対象に最適
 写真:現代ビジネス
 3人を始め、EAJSに集まった研究者の話をまとめてみると、どうやらターニングポイントは2010年代だったらしい。日本では、東日本大震災が起こり、安倍元首相を頂点とする「自民安定政権(自公も含め)」に入ったが、欧米でも大きな変化が起こっていた。 「Brexitが決まったり、トランプの大統領選なんかがあった2010年代の半ばまでに、欧米では偽情報拡散で世論を操作しようとする動きがすでに顕著にみられていたじゃない?」とスティーヴィに言われてはっとした。確かにそうだった。今思えば、私のFacebookアカウントは、ケンブリッジ・アナリティカによって「米民主党、英労働党支持者」とみなされていたらしく、トランプの偽ツイートだの、EU離脱派の怪しいデータなどがタイムラインに次から次へと投稿され、うっかりひっかかりそうになったものだった。
 「日本でここ十数年、加速度的に起こっている現象は、『日本固有のこと』ではなくて、俯瞰的に見れば、世界的に高まる右派ポピュリズムの一例」「だから、日本でこういう新右翼的な潮流が蔓延しはじめても、特に失望とか幻滅とかしなかった」という点で彼らは一致している。
 ヨーロッパでは、この間、凄まじい偽情報操作を当局が察知して、EUや各国政府が必死に乗り出し、取り締まる法律や仕組みを作り始めた。「もぐらたたき」の様相だが、それでもなんとかして市民を守ろうとの努力が積み重ねられてきている。「日本ではそういう動きがほとんどないから、どんどん増幅してしまう。それに日本語という言葉の壁もあって他国や他文化からの影響を受けにくい」それが、研究にはもってこいの「インヴィトロ(試験管内)状態」を提供しているらしい。
 彼らは日本を研究してはいるが、研究テーマが「日本」に限定されているわけではない。現在世界的にメタ現象として進行している「新右翼」や、それと「デジタルメディアの関係」、さらにいえば、AIなどのハイテクによる「デジタル・トランスフォーメーションと社会との相互ダイナミズム」がテーマなのだ。アメリカやヨーロッパの国よりも、日本のそれを分析した方が、より顕著に見えるということなのだと腑に落ちた。
自分の一部にもなってしまった日本、でも…
 日本留学を通してよい人たちと出逢ったし、ヨーロッパとは異なる文化や芸術や社会に浸って多くを学んだから、日本研究を選んだことに後悔はないし、これからも続けていくだろうという点で3人は口を揃える。そして、一介の研究者に過ぎないのだから、日本社会や政治を偉そうに糾弾する立場にはないと、とても慎重で低姿勢だ。
 ただ、個人的には……言葉を濁しながら危機感を隠さなかった。
 「民主主義がほとんど機能しないほど劣化していたり、包摂的社会にしていこうとしている人たちが挫折してがっかりしていることも知っている」(スティーヴィ)
 「日本の若い人たちが、もっともっと多くクリティカル・シンキングメディア・リテラシーを持って、社会的議論に積極的に関わるようになればいいのに」(オレナ)
 日本の同世代にはあまりにもそれが欠如しているから、偽情報でも陰謀論で好きなように操作されてしまうのだという。
 「たとえば、ワーキング・プアの人々とか、女性の不平等とか、LGBTQ+の人々のアイデンティティのこととか、国の近未来をひどく憂慮している若者やシルバー世代がいることとか、民族的文化的に異なる背景を持つ少数派のこととか――困っていたり、あがいたりしている仲間たちを見て見ぬふりをする人々が少なくないことはとても残念に思う」(スティーヴィ)
 確かに、日本では友人や知人は支え合うけれど、欧州にいると困窮する赤の他人のために、立ち上がり連帯する人が驚くほど多いことを、すごく頻繁に目の当たりにしてきたと私も思う。
 経済格差拡大、地政学的緊張の高まり、差別を助長するような政策、反知性主義の高まり、気候危機の否定や不作為などの傾向は、日本だけで起こっていることではないと彼らは見る。ただ、日本ではそれが誇張されていると言う。
 「地球が抱える今日的課題、つまり、気候危機、持続可能なエネルギーへの転換、自然資源の枯渇、性や国籍、人種などあらゆる側面での人権侵害といった課題に、日本の政府は、持続可能な形で解決しなくてはという認識も意欲のかけらもないように見える」(リンダ)
 「自民党政権自体がすでに諸外国で勃興するポピュリスト的主張や政策を実践しているから、典型的なポピュリスト政党の出る幕はないと分析する学者もいるけれど、だからといって、このまま放置していたら、得票目的だけの政策が歯止めなく繰り返されるだけ……」(リンダ)
 確かにドイツのための選択肢(AfD)やフランスの国民連合のような極右政党は、日本を「理想」として掲げているという話は巷では有名だ。
 近未来の日本を憂いて
 写真:現代ビジネス
 ヨーロッパ人にマイクを向ければ、今も、期待通りの「日本っていいね」が返ってきて胸をなでおろす私たち……。かつては、オピニオンリーダーが新しい情報を発してから、それが社会全般に伝播するには、十数年はかかると言われてきた。おかげで、未だに、日本に対して嬉しい好イメージを抱いてくれている人が世界中にあふれ、超円安も手伝って、コロナ禍を越えて日本は行きたい国の筆頭にあがる。
 でも、今は、デジタル時代だ。情報はあっという間に広まる。若き日本研究者たちが、ここまで知り抜いて発信する日本社会の劣化ぶりは、瞬く間に地球社会に広まってしまう時代かもしれない。
 『宗教右派フェミニズム』著者の山口智美氏や、「ひろゆき論」で有名な伊藤昌亮氏、日本型排外主義研究でも知られる樋口直人氏らのセッションを真剣に聞き入っている欧州の若手研究者たち。その後ろ姿を眺めながら、近未来の日本社会を思い描く時、ふと背筋にひやりとするものを感じてしまったのは、私だけではない気がする。
 栗田 路子
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