⏱2ー4ー中国スパイの脅威、フィリピン元市長のなりすまし事件。明日は日本。~No.5 

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   ・   ・   {東山道美濃国・百姓の次男・栗山正博}・   
 【ステルス侵略】
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 2024年9月6日 YAHOO!JAPANニュース All About「日本にとっても他人事ではない「中国スパイ」の脅威。フィリピン元市長の「なりすまし事件」から考える
 9月6日、フィリピン元市長のアリス・グオ氏が逮捕された。経歴から、彼女は「中国スパイ」だとみられており、世界中で大きな問題となっている。日本にとっても他人事ではない「中国スパイ」問題を考える。
 いま、フィリピン発のとんでもない「スパイ」の話が世界的な問題になっている。
 渦中の人物は、フィリピンの首都マニラの北部にあるタルラック州バンバン市のアリス・グオ元市長だ。2022年から市長を務めてきたこの人物が、実は中国のスパイだと見られており、疑惑から逃れるために逃亡していたインドネシアで9月4日に拘束され、6日に強制送還された後、逮捕された。
 最近、世界各地で「中国のスパイが暗躍している」として数多くのケースが取り沙汰されている。そんな中国スパイにからむニュースの中でも、このグオ元市長の話は、史上まれに見るようなスパイ騒動に発展している。今回は、グオ元市長の問題と中国スパイの実態に迫ってみたい。中国スパイの脅威は、日本にも決して無関係ではない。
 【写真を見る】実は“中国人”だったアリス・グオ元市長
◆高級バッグやネックレスは「人身売買」への関与で得たものか
 グオ元市長が、バンバン市の市長になったのは2022年のこと。もともとは地元で成功したビジネスパーソンだった(という触れ込みだった)。養豚ビジネスやカーディーラーなどを運営していたという。
 そんな市長が、2024年7月に汚職に絡み、フィリピン議会上院の調査を受けることになった。
 フィリピンでは2016年から、政府がPOGO(フィリピン・オフショア・ギャンブリング・オペレーター)という外国人顧客向けオンラインカジノの運営を許可する制度を開始している。
 3月、バンバン市にあるPOGO運営企業が、大統領府管轄の組織犯罪対策委員会(PAOCC)の捜査対象となり、摘発が行われた。その捜査で、人身売買で連れてこられた人を含む1000人ほどの労働者と、マネーロンダリングなど金融犯罪の証拠が発見された。さらに地下には、逃亡用のトンネルなども用意されていたのである。
 捜査では、その企業の運営にグオ氏が裏で深く関わっており、犯罪行為に加担して大金を受け取るなど汚職に手を染めている証拠が見つかった。
 グオ氏はたびたび高級ブランド品などで身を包んでおり、SNSなどでその豪華なグッズが注目を集めていた。高級車であるロールス・ロイスの前で記念撮影をした際には、彼女の高級バッグやネックレスなどが話題になった。そうした高級品などは、汚職で得たものだと指摘されている。
◆アリス・グオという名前も虚偽、実際には「中国生まれの中国人」だった
 一連の調査により、さらにとんでもない事実が明らかになった。グオ氏の出自から、経歴などがうそだらけであることが分かったのである。
 公聴会に召喚されたグオ氏は、来歴などさまざまな質問に答えるはずだったが、その回答は「本当は自分の出生地は知らない」「出生届は17歳の時に提出された」「子ども時代の記憶がない」「学校は行かずホームスクールで学んだ」など、支離滅裂でひどいものであった。さらに、父親はフィリピン人だと言っていたにもかかわらず、実際は中国人だったことも明らかになった。
 それだけではない。アリス・グオという名前も、実は本名ではなかった。彼女の実名は「Guo Hua Ping(グオ・フア・ピン)」であり、フィリピン生まれと主張していたが、実際には中国生まれの中国人。13歳の時に、中国人家族と一緒に中国の福建省からフィリピンに移住していた。
 さらに、アリス・グオという名前でグオ氏が登録していた誕生日などと一致するフィリピン人女性の存在が書類で発見されている。グオ氏は本物のアリス・グオになりすましていたのだ。かつ本物のアリス・グオは行方不明になっているという。ちなみにグオ氏の中国時代の書類の生年月日は全く異なるものだった。
◆市長当選も、果たして「正当なもの」だったのか
 議会の捜査ではさらに、グオ氏がフィリピン政府に入り込み、中国がフィリピンの政治に影響力を持つために訓練された「スパイ」の可能性があると指摘されている。その過程で、オンラインカジノを隠れみのに、数々の犯罪にも手を染めていたというわけだ。
 捜査が進展する中で、グオ氏は市長職を停止された。すると彼女は5月から行方不明になり、海外に高跳びした。現地の報道によれば、フィリピンからマレーシアに飛行機で移動し、そこからまたシンガポールに飛んで、1カ月ほどシンガポールで過ごしていたという。そこからフェリーでインドネシアに逃げていたところを発見され、逮捕された。逮捕容疑は、POGO企業での人身売買に関与したことだった。
 中国スパイがフィリピン市長になり、金を稼いで、さらに政界での影響力を広げていくーーグオ氏はそういう筋書きで活動をしていたと指摘されている。そもそも、市長になった際の投票すら正当なものだったのかは分からない。金をばらまいていた可能性もある。これからそうした工作の全てが明らかにされるだろう。
◆世界中を静かに侵略する「中国スパイ活動」
 このケースは世界各地で暗躍している中国スパイ活動の氷山の一角に過ぎない。アメリカの元情報関係者も筆者に、中国政府は近年、世界中で政界に入り込み、国家の対中政策に影響を与えるよう動いていると指摘する。
 オーストラリアでは2018年に『サイレント・インベージョン ~オーストラリアにおける中国の影響~』という書籍が出版され、中国政府がスパイなどを使ってオーストラリアの政界へ影響力を高めようとしている実態が明らかにされている。まさに水面下で「サイレント・インベージョン(静かなる侵略)」が進められていた。
 例えば、当時オーストラリアでは、車販売で成功していたメルボルン市の中国系ビジネスマンが中国人スパイから政界進出を持ちかけられ断り、遺体となって発見される事件が起きるなど物騒な話も話題となった。
 アメリカでは9月3日に、ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事の補佐官を務めていた中国系アメリカ人のリンダ・サン被告が起訴されて大騒動になっている。サン被告は、知事の情報を中国側に提供したり、知事に中国寄りのアドバイスなどをしたりすることで影響を与えており、例えば、中国と対立する台湾の高官がニューヨークに訪問するのを妨害したり、州の発表から新疆(しんきょう)ウイグル地区にからむ記述を削除するなどしていた。
 そして中国のための工作の見返りとして、多額の金銭を受け取っていたという。金銭を隠すために、家族を巻き込んで不動産を買うなどマネーロンダリングも行っていたと言及されている。
◆日本にとっても他人事ではない
 こうした話は、日本も決して対岸の火事ではない。日本の公安当局者は、「中国政府関係者はスパイなどを使って日本の政界に侵入し、対中政策に影響を与えようとしている。中国政府のために動いてくれる政治家を誕生させる目的で工作も行っている」と指摘している。実際に、中国政府関係者がひそかに日本の現役国会議員秘書として活動していたケースも明らかになっているし、中国大使館などによく出入りしている国会議員や地方議会議員なども確認されている。
 フィリピンでのケースは特に書類管理などが比較的緩いフィリピンだったから可能だったのかもしれないが、オーストラリアやアメリカのケースなどからも分かる通り、中国スパイが政界工作を狙っているのは間違いない。日本もその現実を改めて認識して、きちんと対応していくことが求められる。
  この記事の筆者:山田 敏弘
 ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチン習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。
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 9月3日 YAHOO!JAPANニュース「NHK元中国人スタッフ自身が「何を考えていたか」を発信  在日中国人に潜む「次の反乱」に無防備な日本
 遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
 NHK放送センター(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
 5月31日に靖国神社に落書きをした犯人は、「靖国神社を侮辱する動画を流せば人気が出て、再生数が多くなり金儲けができる」というのが動機だった。
 8月19日未明に同じ場所に落書きした模倣犯は仲間に「カッコいいだろ!」と自慢したかったからだ。日本を最大限の形で侮辱したのは「英雄的行為だ」という認識を持っている。
 8月19日午後に、その模倣犯の犯行に関するニュースを報道していたNHKの中国人外部スタッフが原稿にない文言「釣魚島(尖閣諸島)は中国の領土」や「南京大虐殺を忘れるな」などと報道したあと中国に帰国し、中国のSNSの一つウェイボーで自分の思いを数多く発信している。そこには強烈な「反日感情」が滲み出ている。
 中国で「胡越」という名で特定され絶賛されている彼は、NHKで22年間も働いていた。それでもなお、帰国後の発信から見える「反日感情」は、日本にいる、第二、第三・・・の「胡越」、いや無限に潜んでいるかもしれない「次の胡越」の出現を示唆し、無防備な日本に背筋が寒くなる。
◆帰国後のNHK中国人元スタッフの発信が示す「第二の胡越」の出現
 中国で明らかにされているNHKの中国人元外部スタッフの名前は「胡越」だ。
 8月31日のコラム<5月の靖国神社落書き犯は2015年から監獄にいた犯罪者 PartⅡ―このままでは日本は犯罪者天国に>に書いたように、「胡越」は8月26日にウェイボーで「ゼロに戻った、帰ってきた」、「22年間、22秒間」、「全ては22秒間に濃縮した」と発信している。彼のウェイボーにおけるアカウントは「树语treetalk」(树语は樹語の簡体字)で、「雲南から発布(中国語のママ)」とあるので、帰国した先は雲南のようだ。
 8月29日になると「胡越」は「树语treetalk」で、「多くの網友(ネットにおける友人=応援してくれるネット民)に感謝する。心が温まる」と書き、「現在の日本のメディアは歴史の真実を隠蔽している」などと書いている。
 8月30日午前11時24分に「胡越」は「树语treetalk」で、「日本は上から下まで、隠そうとすればするほどボロが出るような喧騒と狂乱の中にあるが、それは想定内のことだ」と、まず書いている。ここで「胡越」が使った中国語は「欲盖弥彰」という4字熟語で、「悪事は隠そうとすればするほど露呈しやすい(隠すより現るるはなし)」という意味だ。
 この4字熟語を見たときに、2020年7月にヒューストンの中国総領事館が閉鎖された一件を想起させた。このときも中国の外交部は「做贼心虚、欲盖弥彰」(アメリカは悪事の露見をおそれてビクビクしているんだろうが、それを隠そうとすればするほどボロが出る)という言葉を用いてアメリカを非難した(と、中央テレビ局CCTVが報道した)。
 「胡越」はジャーナリストなので、中国外交部の発言および中共中央宣伝部が管轄するCCTVの報道をしっかり把握していることだろう。だから敢(あ)えて、その中共中央と同じ言葉を使ったものと思う。ということは、同じ思想的立場にある人間がNHKの外部スタッフとして22年間も仕事をしてきたのかと、ふと、そのことに背筋の寒くなる思いがよぎった。
 「胡越」はさらに「(日本は)すでに歴史の真相に敵対する歴史修正主義という戻れない道を選んだのだから、公義(道義、正義)を主張する個人の声を圧殺するしかない。私が声を発するのでなかったとしても、声を発する他の人が必ず現れるだろう。事実は非常に簡単なことだ」と書いている。
 これはすなわち、「第二、第三の自分が必ず現れるだろう」ということを示唆したものであり、日本には「第二、第三の胡越」どころか、数えきれないほどの隊列が潜んでいると覚悟した方がいい。
 8月30日15時35分、「胡越」は「树语treetalk」で、以下のように「自分が原稿にない内容の報道をしたことの正当性」を主張している。
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 報道の操守(そうしゅ)(節操、規範。信念を固く守って心変わりしないこと)や職業倫理に違反するか否かに関しては、以下の点が参考になる:
 1) 生放送では、台本から脱線することはよくあることだ。番組によっては、脱線の自由度も自ずと違ってくる。台本から脱線することは、直接的にはニュース報道の操守に違反したことを意味するものではない。
 2) 脱線した報道の内容こそがカギだ。契約書に放送内容に関する取り決めがあるだろうか?一般的な契約書には、公序良俗や社会正義などに違反してはならないという報道のガイドラインが引用される。この「22 秒間」をあなたは「違反」だと思うのだろうか?
 3)(契約者の)甲と乙の間で内容に異議がある場合、それは契約上の紛争であって、報道操守とはいかなる関係もない。原稿にない言葉を発するという原稿脱線は、報道操守と社会正義を守っている(その範囲内だ)という例は、どこにでもあることだ。
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 以上が「胡越」の意思表明だ。
 すなわち「胡越」は、あの「報道テロ」のような事件を、「合法的な行為」として正当化しているのである。
 NHKの稲葉会長は8月22日、「副会長をトップとする検討体制を設けて、可能な限り原因究明を行う」とした上で、今後「損害賠償請求を行ない、刑事告訴を検討する」という趣旨のことを言っているが、そのためには「胡越」本人が日本にいなければならない。日中の間には「犯罪人引渡条約」がないからだ。だというのに、追及を可能にする実動的な措置を何も取っていない。
 本気で原因究明を行ない、刑事訴訟にまで持って行くつもりなら、たとえば、「胡越」が日本を離れられないように、せめて「事件の究明が終わるまで、パスポートを一時預かる」くらいのことはしていいはずだ。しかし、まるで「スムーズにお帰り頂くための準備をしてあげた」かのように何もしなかったので、「胡越」は8月26日には、いかなる妨害も受けることなくスムーズに帰国してウェイボーで発信を始めたわけだ。
◆「第二、第三の胡越」が出て来る危険性を秘めている在日中国人の現状
 日本の国立大学をはじめ大手の私立大学にも、「中国人留学生学友会」というのがあり、会長は必ず日本にある中国大使館に留学生の活動状況を報告しなければならない。つまり中国大使館の管轄下にあるのだ。
 日本には企業を経営している中国大陸から来た中国人が大勢おり(出入国管理統計から引用したデータによると、2023年7月時点で、500万円の出資で2名以上の雇用を有する経営・管理ビザを持っている中国人の人数は15,986人)、日本の年末年始などにはそういった会社の社員なども集まって盛大なパーティを開く。そこには中国大使館の官員がゲストで参加することが多い。つまり中国政府もしくは中国共産党と親しく結びついているのである。
 また日本の企業で働いている大勢の中国人(主として元留学生)もいるが、ほとんどは非政治的であるものの、心の中では中国共産党を愛し肯定している者も少なくない。
 大学等で教育職に就いている中国人の中にも、中国共産党を愛し肯定している者が相当数おり、日本のメディアはむしろ迎合的にゲストとして呼んで、知らない間に中共中央統一戦線部のプロパガンダに与(くみ)しているテレビ局などさえあるくらいだ。NHKやフジテレビの一部番組などがその典型と言っていいだろう。
 念のため、日本の出入国在留管理庁<令和5年(2023年)末現在における在留外国人数について>によると、2023年末の「在日中国人総数は821,838人」となり、「留学在留資格の中国人は134,651人」となっている。
 これら巨大な母数の中で、いつ「第二、第三の胡越」が出現してもおかしくない。「胡越」のウェイボーに書かれているメッセージのうち「反日感情」に基づく発露は論外として、唯一正しいことを言っているのは、まさにこの「第二、第三の自分が出ても不思議ではない」という趣旨の発言だ。
 しかし日本には、その警戒心が完全に欠落している。
 そのことに気が付いている人は何人いるのだろうか?
 いたとすれば、NHKはこのような失敗をしなかったはずだ。
 今回の「報道テロ」で責められるべきは「胡越」ではなく、警戒心が欠落しているNHKもしくは日本政府であると結論付けることができる。
 「胡越」を帰国させてしまったNHKと日本政府の行動は、なによりも「警戒心の欠如」を如実に表していることを見逃してはならない。
 なお、中国における「反日感情がどのようにして植え付けられたのか」に関しては、次回のコラムで考察することとする。
 遠藤誉
 中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『嗤(わら)う習近平の白い牙 イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。
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 9月6日 YAHOO!JAPANニュース「中国の反日感情はいかにして植え付けられ加速したのか?
 遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
 中国共産党党大会(写真:ロイター/アフロ)
 9月3日のコラム<NHK元中国人スタッフ自身が「何を考えていたか」を発信  在日中国人に潜む「次の反乱」に無防備な日本>に書いたように、NHK元中国人スタッフは中国に帰国したあとウェイボーで「現在の日本のメディアは歴史の真実を隠蔽している」と書いている。しかし、中国人のほとんどは「中国共産党こそが歴史の真実を隠蔽していること」を知らない。
 本稿では、歴史の真実を隠蔽しているのは中国共産党であることを指摘するとともに、中国の根深い反日感情はいかにして植え付けられ、加速してきたのかを考察する。
◆1956年、毛沢東「日本軍の進攻に感謝する!」
 1956年9月4日、中国(中華人民共和国)の「建国の父」毛沢東は、(旧日本軍の)遠藤三郎元中将を中国に招待し、中南海で「日本軍閥がわれわれ中国に侵攻したことを感謝する」と発言している。毛沢東は「侵略」という言葉さえ使わず、慎重に「進攻」という言葉を選んでいる。毛沢東はさらに「あの戦争がなかったら、私たちはいまここ(北京の中南海)にいない」と言っている。
 なぜか?
 その膨大な証拠は拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』に書いたが、ひとことで言えば、毛沢東が打倒したい相手は「中華民国」の国民党軍を率いる蒋介石だったので、日本と「中華民国」が戦争をしていることは、毛沢東にとっては非常に都合のいいことだったからだ。
 1936年に毛沢東は、周恩来や藩漢年(参照:8月16日コラム<中国共産党には日本に「歴史問題を反省せよ」という資格はない 中国人民は別>)を用いて蒋介石の側近である張学良を凋落させ西安事変を起こし、1937年から国共合作を行なった。
 この年の10月に毛沢東が「七二一方針」を指示していたことを知っている人は少ないかもしれない。
 「七二一方針」とは「七割は共産党軍が発展するために力を注ぎ」、「二割は国民党軍に妥協して協調しているような顔をし」、「一割だけ抗日戦争に力を注ぐ」という戦略だ。その命令に違反して日本軍と本気で戦った共産党軍もいたが、のちに粛清されている。
毛沢東の「七二一方針」 抗日戦争には1割の兵力しか注ぐな!
 この方針の信憑性を突き止めるため、筆者は台湾へ行って国民党軍事委員会関連や党史関連の資料を読み漁り、またアメリカに行き蒋介石直筆の日記があるスタンフォード大学のフーバー研究所に通い詰めた。その結果、台湾の国民党側資料にも、蒋介石日記の1937年8月13日にも「七二一方針」に関して詳細に書いてあるのを発見した。ただ蒋介石の毛筆による日記はコピーしてもいけないし、写真を撮ることも許されないので、残念ながら、その筆跡の証拠をお見せすることはできない。
 しかし、1965年の<中華民國五十四年國慶紀念告全國軍民同胞書>において蒋介石が、毛沢東日中戦争中の国共合作に関して「七分發展,二分應付,一分抗日!」(中国共産党の力の七割を中国共産党の発展に注ぎ、二割を国民党の対応に使い、一割だけ抗日戦争に注ぐ)という毛沢東の方針を激しく批判したという記録がある。
 中国共産党を愛し肯定する人たちは、「それは国民党軍のでっちあげだ!」として、反日感情を正当化するだろう。
 それなら、まだ中華人民共和国が誕生する前の1947年にINDIANAPOLIS: BOBBS-MERRILL COMPANYで出版されたLast Chance in China をご覧になるといい。作者はFreda Utley(フレダ・アトリー)というイギリスの学者、政治活動家で、ベストセラー作家だ。この本のp.194–195にかけて日中戦争における毛沢東の「七二一方針」に関する記述がある。その部分のスクリーンショットを図表1に示す。
 図表1:毛沢東の「七二一方針」に触れているLast Chance in China
 出典:Last Chance in China(1947年)
 図表1に書いてあるのは主として以下のような内容だ。
 ――毛沢東は1937年10月に延安で、八路軍の政治担当者たちに以下のような指示を出した:日中戦争はわが党拡大のための絶好のチャンスを与えている。わが党の堅固な政策は、70%を拡大のために、20%を国民党への対処のために、10%のみを抗日のために使うものでなければならない。(図表1概要は以上)
 作者のフレダ・アトリーは、もともと共産主義に肯定的だった。1927年に労働組合活動家として旧ソ連を訪れたあと、1928年にイギリス共産党に入党している。その後、共産主義に幻滅してアメリカに移住し(1939年)、反共産主義の作家として活躍した。その意味で彼女は1937年のときには、まだ共産主義を信奉していたことになる。したがって信憑性が高い。
毛沢東、日本軍と結託しながら、「日本軍と戦っているのは共産党軍」と激しいプロパガンダ
 そのような中、毛沢東は「日本軍と戦っているのは共産党軍で、蒋介石は日本と癒着している」というプロパガンダに注力し、実際は2015年11月16日のコラム<毛沢東は日本軍と共謀していた――中共スパイ相関図>にあるスパイ相関図のようなスパイ活動を行ない、日本軍と結託していた。国共合作により入手した国民党軍の軍事作戦を日本側に通報し、その見返りに貰ったお金を印刷費に回して、ひたすら「抗日戦争を戦っているのは共産党軍だ」というプロパガンダばかりをしていたのだ。
 毛沢東の文学性は非常に高く、人民の心をつかむのに成功している。プロパガンダの効果は非常に高く、多くの人民が「中国のために日本軍と戦っているのは共産党軍だ」と深く心に刻み、それは中国の大地に染み込んでいった。
 1945年8月15日に日本が無条件降伏をしたのは、「中共軍が日本軍を倒したからでないこと」は明らかだろう。その時はまだ「中華民国」だったのだから。日本軍が中国大陸から撤退したあとに、共産党軍は「日本軍と戦った国民党軍」を打倒するために国共内戦を行なった。こうして1949年に誕生したのが新中国(=中華人民共和国)、現在の中国である。
 人民が尊敬した「抗日戦争と戦った勇敢な共産党軍(中国人民解放軍)」とは裏腹に、実は毛沢東は「南京大虐殺」も「抗日戦争勝利」も無視したことは注目に値する(日本の防衛研究所などにある日中戦争史は、中国共産党プロパガンダの記録である抗日戦争史に基づいて書かれているので、毛沢東と同じ程度に日本人を完全に騙している。GHQが日本人に植え付けた「贖罪意識」が原因だろう)。
◆「南京大虐殺」を無視し続けた毛沢東
 中国で言うところの「南京大虐殺」が行なわれたその日(1937年12月13日)、毛沢東は祝杯を挙げたという記録もあり、『毛沢東年譜』の1937年12月13日の欄には、「南京失陥(陥落)」としか書いてない。1949年の中華人民共和国誕生後も、毛沢東はただの一度も「南京大虐殺」があったとは言っていない。
 その証拠を図表2に示す。図表2は筆者がワシントンで講演したときのプロジェクターで使った原稿で、1949年の12月13日の欄には何も書かれていない。それ以降も、毛沢東は死ぬまで「南京大虐殺」を口にしたことがないし、教科書にも書かせなかった。
 図表2:毛沢東が「南京大虐殺」を無視し続けた証拠
 『毛沢東年譜』を基に筆者作成
 中国では、毛沢東が逝去した後に初めて「南京大虐殺があった」と言っても逮捕されなくなったのである。それまでは「南京大虐殺があった」と言った者は「秘かに消されていった」。
毛沢東は抗日戦争勝利記念日を祝ったことがない 祝い始めたのは江沢民
 もちろん毛沢東は「抗日戦争勝利記念日」を祝ったことがない。
 なぜなら「勝利したのは蒋介石だから」だ。
 大々的に全国レベルで祝うようになったのは1995年からで、1994年から愛国主義運動によって「反日教育」を始めたのも江沢民だ。なぜなら江沢民の父親は、日中戦争時代の日本の傀儡政権である汪兆銘政権側の官吏だったからである。そうでなかったら、あの日中戦争時代にピアノやダンスができるような生活を送っているはずがない。その過去がバレないように、1993年に国家主席になった江沢民は、必死になって「自分がいかに反日であるか」を中国人民に示そうとした。
反日感情はいかにして植え付けられたのか?
 1980年以降に生まれた「80后(バーリンホウ)」たちは日本のアニメや漫画が上陸していたので、ほぼ99%の若者が日本の動漫(動画と漫画)を見て育った。だから「日本大好き」なアニメ人間が多いのだが、そこに反日教育が加わったので、「ダブルスタンダード」を持っている。このことは拙著『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』(2008年)に書いた。
 愛国主義教育では1996年11月に「愛国主義教育基地」を100ヵ所創設し、1997年7月に中共中央宣伝部がその100ヵ所リストを発布して学校教育の授業に愛国主義教育基地巡りを義務付けた。まだ江沢民政権だった2001年6月11日には中共中央宣伝部はさらに100ヵ所の基地を発表し、計200ヵ所に増えた。
 日本のアニメの海賊版が中国全土を席巻する社会現象と、愛国主義教育による反日感情が同時に植え込まれていく中、中国政府は国産アニメを増やし、日本アニメのウェイトを減らす政策を動かし始めた。
 映画制作も政府による許可制なので、抗日戦争ものなら許可が下りやすく、興業のために抗日戦争映画を製作することが多くなり、反日感情を煽るようになった。
 「80后」たちはいま40歳前後だ。NHKの中国人元スタッフも40代であるという。ダブルスタンダードの真っ只中である。
 日本に憧れ日本留学はしたものの、2010年からは中国のGDPが日本を上回り世界第二位の経済大国に成長すると、日本留学は誇らしいことではなく、あんな日本にいるのかと軽蔑しないまでも価値を落とし始めた。
 特に愛国主義教育では「中華民族の誇り」を強烈に打ち出しているので、そうでなくとも長い期間にわたる一人っ子政策で、小皇帝あるいは小皇女としてチヤホヤされながら育て上げられてきた年代の若者は、異常なほど「自尊心」が高い者が少なくない。中には日本人を侮辱したいという気持ちを心の奥に秘めている者もいる。
 習近平政権になると共産党による一党支配体制強化のために、「中国共産党は抗日戦争の中流砥柱(中心的な柱)」と言い始めて、「反日感情が強い者が立派」というムードを創り上げていった。ネット時代にも入っていたので、反日感情の強い動画を配信するとアクセス数を稼げるという状態を生んだのである。
 2023年10月24日には<中華人民共和国愛国主義教育法>が制定され、2024年1月1日から施行されることが決まった。日本が、中国を潰そうとするアメリカと提携して対中包囲網を強化しているからということもあろうが、何よりも中国共産党の一党支配体制を強化維持していくためだ。
 中国共産党は嘘をついている。
 政治のために日中戦争を利用してきた。
 毛沢東は政敵だけでなく無辜の民を含めて生涯で計7000万人の中国人民を死に追いやっている。その中には筆者が経験した1947年から48年にかけて餓死させられた長春食糧封鎖による数十万からなる餓死者も入っている(参照:『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』)。
 ふだんはノンポリで、筆者が世話をしてきた日本アニメ大好きな中国人元留学生は、「毛沢東が何人の中国人民を殺そうと、日本には関係ないでしょ!日本人が中国人を殺していい理由にはなりません!それによって日本軍が中国人民を殺戮したことを正当化するんですか!」と激高した。
 誰も正当化などしていない!
 二度とあのような戦争を起こしてはならないということを主張するために、筆者は生涯をかけて努力してきたつもりだ。
 また日本政府も日中戦争に関しては、25回も中国に謝罪している(参照:2015年3月12日のコラム<日本は中国に25回も「戦争謝罪」をした――それでも対日批判を強める理由は?>)。
 反日感情が、政治のために利用されている現実を、中国の一般人民は気づくべきだ。
 当然のことながら、日本人は二度と戦争に引きずり込まれないようにアメリカとの関係を客観的に見つめなければならない。そのために筆者は発信し続けている。
 中国人元留学生に罵倒される覚えはない!
 日本で働いている数多くの中国人元留学生には善良な人が多いが、こと日中戦争の問題になると、激高する者も少なくないことは認識しておいた方がいいだろう。
 遠藤誉
 中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『嗤(わら)う習近平の白い牙 イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。
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