🎷64:─1─歴史的な文書「戦後70年談話」。安倍晋三総理と戦後レジームからの脱却。~No.286  

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 2023年11月7日 産経新聞 久保田勇夫の一筆両断「「戦後レジームからの脱却」③―歴史的な文書「戦後70年談話」―
 平成27年8月に発表された「内閣総理大臣談話」(いわゆる「戦後70年の首相談話」)は、極めて優れた歴史的文書と呼ぶに値するものであり、熟読玩味すべきであると考えている。「戦後レジームからの脱却」を考える上で、特にそうである。残念ながら、われわれは、恐らくこの決定に関わった多くの政治家たちも含めて、その真価を十分理解していないのではないかと考えている。個人的には、かつて霞ケ関において時としてこういう文書の原案を作成する立場にあった者として、この談話の原案を作成した人物に深い敬意を表したい。
 近年、8月15日の終戦記念日には、時の総理大臣が戦後談話を発表することが恒例となっている。そして、その中で第二次大戦中のアジア諸国に対する行為に対して、どういうことを述べるか、具体的にはその中に「侵略」「おわび」「植民地支配」「痛切な反省」が盛り込まれるかが注目されてきた。この年もそうであった。
 そこで、「先の大戦への道のり」という部分を中心に、この「70年談話」を論じてみたい。まず注目すべきは、このテーマを長期的な世界史の流れの中で捉えていることである。ここではわが国が世界に登場する前に、既に世界のほとんどが西欧諸国の植民地となっていたこと、その中でわが国は独立を守るために、多大なコストを払いながら、国内的には近代化を図り、対外的には日露戦争などを戦ってきたことを述べている。すなわち、わが国のこの時期の行動を評価するにあたって、わが国のそれを抜き出して論ずるのではなく、その時代における世界の流れの中で捉えているのである。
 第2点は先の戦争の道のりについてのわが国の見解を明確に示していることである。この「談話」は、世界恐慌が発生し、欧米諸国が植民地を巻き込んだ経済のブロック化を進めたこと、それによって日本経済は大きな打撃を受けたこと、そしてその打開策として誤って武力の行使に走ったことを述べている。客観的な記述であるが、極めて大胆なことを述べているのである。なぜ大胆かというと、もしそうであれば、欧米諸国による経済のブロック化がなければ、日本は戦争に走らなかったであろうということになるし、わが国による武力行使の遠因は欧米諸国が進めた経済のブロック化であるということになるからである。これは、欧米諸国に対する極めて強いメッセージのはずである。
 第3点は、この時代のわが国の対応について厳しい批判をしていることである。わが国はそういう外交的、経済的な行き詰まりを、武力の行使によって解決しようと試みたこと、そして国内の政治システムは、その歯止めたりえなかったと述べている。すなわち、わが国の政治システムが機能しなくなった結果、先の大戦となった、戦争に導いたのは政治の責任であると述べているのである。
 次に注目すべきは、この文書が極めて巧妙に作られていることである。何故ならば、その筋書きとなる論理を展開する中で、わが国がこれまで正面切って主張しなかったこと、あるいはさまざまな理由でそれを差し控えてきたことについてさりげなく触れていることである。その第1は、わが国もこの戦争で多大の苦しみを味わったことである。広島、長崎への原爆の投下、ほとんどの都市に対する空襲、沖縄の地上戦、などが具体的に述べられている。抽象的にではあるが、シベリア抑留、戦後も続いたソ連軍の暴虐などが示唆されている。先の戦争とはそういうものであったし、その中でただわが国の行為のみを非難の対象とすることについての暗黙の抗議が示されていると読むことができるのである。
 第2に、近代のこの一連の動きの中における民族独立の動きを系統立てて紹介している点である。先に述べた植民地化とされることを避けるためのわが国の近代化、第一次大戦後の民族自決の動き、それを踏まえた国際連盟の創設などを述べている。そして敗戦をしたわが国は、「植民地支配から永遠に訣別し、すべての民族の自決の権利が尊重される世界にしなければならない」などと誓ったと述べている。近代史に詳しい人であれば、第一次大戦アメリカの大統領が民族自決を一つの原則として国際連盟を提唱したこと、それにも関わらずその原則は国際連盟の憲章には採り入れられなかったこと、そしてアジアでは多くの国において第二次大戦後も独立戦争が続き、結局全ての国が独立し今日に至っていることを想起するであろう。これは多くの途上国を意識したメッセージとみることができる。だとすれば、これは世界で広く読まれるべきものであろう。
 以上、要するにこの「談話」は、単にわが国の先の大戦における行いについて、痛切な反省と心からのおわびの気持ちを表明しているだけの文書ではない。冒頭、熟読玩味すべきであると述べたのはそういう意味である。
 くぼた・いさお 昭和17年生まれ。福岡県立修猷館高校、東京大法学部卒。オックスフォード大経済学修士。大蔵省(現財務省)に入省。国際金融局次長、関税局長、国土事務次官都市基盤整備公団副総裁、ローン・スター・ジャパン・アクイジッションズ会長などを経て、平成18年6月に西日本シティ銀行頭取に就任。26年6月から令和3年6月まで会長。平成28年10月から西日本フィナンシャルホールディングス会長。
 久保田勇夫の一筆両断 「戦後レジームからの脱却」
①わが国のアイデンティティーを問う
②されどわれらが時代「60年安保闘争」の余韻
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